破滅の道を進む者(エド視点)
「クソ……大恥だ。Bランクの魔物から撤退するなんて」
「……仕方ないわよ。誰にだって不調はあるから」
「は? 不調なんて僕たちにはねえよ! 大体お前のアシストがなってないからだろ!?」
「そんなことないわよ! というか、そもそもあなたもどうなの!? あんな下手な攻撃ばっかりして!」
依頼からの帰路。
二人はお互いどちらが大きなミスをしたか言い争いをしていた。
「はぁ……! どうすんだよ、依頼の件。なんて言い訳するつもりなんだ」
「それは……」
「お前、まさか考えなしに撤退しようだなんて言ったのか?」
「だって、エドのことを思って!」
「バカバカしい! 俺のことを思っているなら魔物を倒してくれよ!」
「……なによ! せっかく心配してあげているのに!」
今の二人には、愛情なんて感情は遠いものだった。
お互いの罪を擦り付け合い、どちらが悪いのかを決めようとするばかりである。
自分たちのミスを認めたくなかったのだ。
自分たちが失敗したことを認めたくなかったのだ。
ミスなんてあるわけがないのに。
あってはならないのに。
王都に戻った二人の足取りは重い。
これから受付嬢になんて言えばいいのだろうか。
「……大丈夫だ。どうにかなる」
だが、まだ楽観視している節があった。
これくらいならどうにかなる。
誰にだってミスをつきものだ。
エドたちはギルドの扉をくぐり、受付嬢の下へと向かう。
「あら。おかえりなさい」
受付嬢が淡々と事務仕事をしながら答えた。
パタンと手帳を閉じて、こちらの方を見てくる。
エドはつばを飲み込み、ぐっと拳に力を入れた。
「依頼は……失敗しました」
ギルドに所属している冒険者たちにバレないよう小声で、ボソリと。
「失敗、ですか?」
ここで、受付嬢が大袈裟に驚いたりするかと思った。
まあこんなこともありますね、と答えてくれるかもしれないと思った。
しかし受付嬢は大方察していた。
きっと彼らは依頼を失敗する。
そして泣きそうになりながら帰ってくると。
なんせケネスがいないのだ。
このパーティはケネスがいるからこそ成り立っていると受付嬢のみならず、ギルド職員は理解していた。
まだ所属する冒険者たちにはバレていないが、職員の中では周知の事実であった。
なんせ、依頼に向かった後も「彼ら、絶対失敗しますよね」と話題になったくらいだ。
エドとアナは受付嬢の答えに期待して、顔を見る。
しかし、受付嬢の表情は冷たかった。
冷徹で、情なんて微塵も感じられない。
ただ、単純に彼らを残念そうに見ていた。
「相手は大手商業ギルドです。責任、取ることになりますよ」
そう言って、受付嬢は目を細める。
「あなたたちに期待して、商業ギルドのマスターがこちらに訪ねて来ています。達成のお礼がしたい
と」
「え……それってつまり……」
「直接、謝罪をすることになりますね」