暇人ってのは人間観察とか得意なんだぜ
俺は剣を引き抜き、剣先を相手に向ける。
クリアリーも針を俺の方へと向けた。
「カレン、リリー! 撃ちまくれ!」
「分かったわ!」
「了解です!」
俺の背後から弾丸と魔法弾が飛んでいく。
何発もの弾がクリアリーに直撃しようとする。
『連撃か、面白いことをする』
しかし、クリアリーは物ともしない。
動じず冷静に弾丸と魔法弾を針で落としていく。
まさに神業ってやつだ。
あんな攻撃を冷静に確実に防ぐなんて人間の技では不可能だろうに。
『《ストップ》』
瞬間、突き進んでいた弾丸が停止した。
クリアリーは静かに弾丸を触っている。
『これが人間の技術か。成長したものだ』
「嘘でしょ……?」
「弾丸が……止まった!?」
一体全体何が起こっているのか、俺も一瞬理解できなかった。
ただすぐに理解する。
弾丸に関する時がクリアリーの能力によって止められたのだ。
「さすがは時計台をモチーフにしているだけあるな。時を止めるなんて」
『余裕そうだな。まあすぐに冷静さなんて吹き飛ぶだろうが』
言いながら、クリアリーは弾丸たち全てに何かを付与していた。
何かしてくるな、これ。
『《ムーブ》」
刹那、弾丸がこちらに向かって反射してきた。
やっぱり変なことしてきたか……!
「結界魔法!!」
俺が叫ぶと同時に、カレンが結界魔法を発動する。
「ちょっとケネス!?」
同時に結界魔法から飛び出し、剣で可能な限りの弾丸を斬り倒していく。
完全に結界魔法で防ぎ切るのは不可能だと判断したからだ。
さすがにカレンの力があっても難しかっただろう。
案の定、カレンの結界魔法は最後の一発を喰らって破壊された。
俺が出てなかったらヤバかったな。
『私は物の時を止めることができる。弾丸など、私の敵ではない』
「へぇ。面白い能力じゃないか」
剣を肩に当て、ニヤリと笑う。
「物と言ったな。ちなみに者ならどうだ。止められるのか?」
『者など止める必要がない。そもそも、貴様らは私に勝つなど不可能なのだ』
「試しにやってみろよ。俺、興味があるわ」
ちょいちょいと手を振ってみると、クリアリーが眉間にシワを寄せる。
ぐっと拳を握りしめて、針をこちらに向けた。
『ならばやってやろう。《ストップ》」
瞬間、体が硬直する。
うっわ、本当だ。マジで動けない。
「すげえな。これ、新体験」
『どうだ。絶望したか?』
「ああ。絶望した絶望した。俺一人の時を止められちゃ、動けないじゃないか」
あまり自由が利かない表情筋を無理やり動かし、笑みを浮かべる。
「俺から目を離すんじゃねえぞ、クリアリーさんよぉ!」
その刹那、俺の隣を高速で何かが通り抜けていく。
「《魔力大強化》《攻撃大強化》。魔法弾、発射」
「《拳銃変形》ミスリル合金弾、穿て」
二人が放った弾丸である。
『なっ!?』
クリアリーの能力には大きな欠点があった。
それは、一つの物あるいは者しか止められないこと。
あいつはリリーとカレンの攻撃を封じる時、魔法弾だけを全て消し去った。
そして残った弾丸だけの時を止め、こちらに跳ね返してきたのだ。
今、クリアリーは動けない。
俺の拘束を解除すれば、俺が一目散にあいつをやりにいく。
しかし、時を止めなければ弾丸と魔法弾が当たる。
けれど不可能だ。
もう弾丸と魔法弾は発射されていて、クリアリーは俺に対して能力を発動している。
今からどちらか片方を封じるのは難しいって話だ。
『あがっ……!? 嘘だ……嘘だ……!』
体に空いた穴を見据え、両手を震わせている。
まさかこんなにも早く能力の欠陥に気が付かれるとは思ってもいなかったのだろう。
あまり舐めるな。
暇人は暇だから人間観察だけはよくするんだ。
「お、解除された」
体の自由が利くようになったのを確認し、剣を握る。
一歩、また一歩とクリアリーに近づく。
「クリアリー、少し暇人を舐めすぎたな」
『貴様のような人間に……! いいだろう、決着の時だ!』
ボロボロの体を動かし、クリアリーは針を俺に向かって突刺してくる。
「ああ決着だ。俺たちの勝ちってことで」
跳躍し、俺は針の上に乗る。
そして思い切り剣を振るった。
クリアリーの胸に刻まれた切り傷は間違いなく致命傷である。
『あ、ああ……』
クリアリーを膝をついて、胸を押さえる。
俺は剣を鞘に収めて、振り返る。
「ナイス攻撃だった! よく俺の意図を汲み取ってくれた!」
「ケネスのおかげよ! ケネスが動けなくなった時、何故かあたしの体は動いてさ!」
「それで今なら、って思って攻撃したらビンゴでした!」
こちらに二人が駆け寄ってきて、俺の方にダイブしてくる。
「おおっ!?」
地面に押し倒され、思い切り頭を打った。
普通に痛い……というか胸当たってるのよ。
オッサンに何やってんだ。
「離れろ離れろ……」
俺が困っていると、遠くからため息が聞こえてくる。
『おめでとう。貴様たちの勝ちだ』
体こそ傷ついているが、一部分は回復している。
さすがは神様だ。完全に倒し切るってのは不可能に近いのだろう。
まあ倒しちゃうと本末転倒なんだけど。
『褒美をくれてやろう。負けてしまったものは仕方がない。決まりだからな』