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無いものは仕方ないよな

 歯車がギコギコと壁面を回っている広い空間。


 そこには明らかに特殊な個体の木偶の坊がいた。


 無機質な顔には飾りだろうか、木片で目と口が描かれていた。


 いやー、普通に恐ろしいわこれ。



「や、やばくない?」



「あれ……めちゃくちゃ大きいですよ……?」



「大きいな。ここが何階層かは知らないが、少なくともどっかの主には違いないだろう」



 マジで趣味が悪いな。

 

 裏ルートを使った結果面倒な目にあって、挙げ句の果てには突然ボス戦か。


 あの神野郎、完全に殺す気でいるな。



「武器を構えろ。リリーはミスリル合金弾丸使えそうか」



「大丈夫。かなり回復してるから二発は撃てる」



「よし。なら一発だけしか撃つなよ。それも万が一の時に限って発砲してくれ」



「了解」



「カレンはバフに徹してくれ。メインは俺が戦うからとりあえず《打撃強化》を頼む。強力なのを頼んだ」



「分かりました」



 俺は拳をぎゅっと握りしめ、剣のグリップを掴む。


 逆手に持ち、相手を見据える。


 暇人にとって相手に不足なし。



「来いよ、ちょっと大きいだけの木偶の坊野郎!」



 言った刹那、巨大な体躯を動かして地面に手を着いた。


 ガクンと室内が揺れ、足がぐらつく。



「おお!?」



 同時に地面から針が飛び出してくる。


 おいおい完全に上位互換じゃないか!



「ヤバい……ヤバいなこれ!!」



 最高にドキドキするじゃないか!


 俺は自分の方に飛んできた針を全て斬り倒し、剣をすかさずリリーたちの方に投げる。


 剣は回転しながら針をなぎ倒していき、壁に突き刺さった。



「嘘……絶対終わったって思ったわ……」



「あ、ありがとうございます!」



「これくらい気にすんな! それよりもだ!」



 俺は生憎と今、剣を持っていない。


 壁に突き刺さっているが、取りに行くにはあまりにも時間がかかりすぎる。



「すまないカレン! 俺に《防御強化》と《速度強化》を頼む!」



「ええ!? 確かに効果はあるかもしれませんがあの魔物相手に――」



「大丈夫だ! とりあえず頼む!」



「わ、分かりましたぁ! 《防御強化》《速度強化》!」



 自分にバフが付与されたのを確認した後、ぎゅっと拳を握りしめる。



「リリー! やっぱミスリルは不要だ! とっておきの55口径弾丸は何発持ってる!?」



「今持ち合わせているのは五発!」



「分かった! それじゃあ、あいつに撃ってくれ!」



「でも勝ち筋はあるの!?」



「いいから信じろ! 時間はねえぞ!」



 今にも木偶の坊が新たな攻撃を仕掛け来ようとしている。


 猶予は残り数秒といったところか。


 余裕だな。



「《拳銃変形》っ! 穿て!」



 轟音と共に、俺の隣を銃弾が飛んでいく。


 一気に加速し、木偶の坊に直撃した。


 普通の木偶の坊相手なら致命傷になったかもしれないが、相手の体躯が大きすぎて時間稼ぎにしかならない。


 それが『目的』だから問題ねえが。


 後ろに大きく仰け反った木偶の坊を俺は見過ごさない。


 歯を食いしばり、自分でも《防御強化》と《速度強化》のバフを付与する。


 これで単純計算で二倍の効果だ。


 俺は地面を蹴り飛ばし、一気に加速する。



「何をする気なの!?」



「武器も持っていないんですよ!?」



「そんなの関係ない! 無いものは仕方ねえからな!」



 無いものをいくら求めたって手に入ることはない。


 そんな都合よく世界は残念ながら回っていない。


 けど、無いからこそできる動きってものがある。


 ボールがなかったらどうする?


 そこら辺の石で妥協するしかない。


 魔法がなかったら?


 剣や槍で妥協するしかない。


 ならば『剣』がなかったらどうする。




 ――拳で妥協するしかないわな!




「速度は十分! 防御強化もあるから拳はある程度痛くねえ! 打撃強化のおかげで一撃は上等!」


 仰け反った巨人に対して、拳を引き。


 そして放った。



「喰らえ! 剣士の俺が特別に拳でぶん殴ってやる! 受け取りやがれぇぇぇぇぇぇ!!」




 ――ゴキュゥウウウウウウウウウン!!




 俺が放った一撃が木偶の坊の胸に直撃する。


 やっぱり木の塊を素手で殴るのは痛いな。


 だが――最高に気持ちがいい!


 瞬間、木偶の坊にヒビが入る。


 ピキピキと音を鳴らしながら、右往左往する。



「カレン! 結界魔法!」



「はい!!」



 こちらに走ってくる木偶の坊がカレンの結界魔法に体をぶつける。



「自爆特攻か。良い作戦だ。だが俺たちの方が一枚上手だったな」



 瞬間、木偶の坊が爆散した。


 拡散した破片が結界を揺らす。


 しかしこれくらいの爆散ではカレンの結界魔法は破られない。


 散り散りになった頃合いに、カレンは結界を解除する。



「すごい……素手でやったんですか本当に?」



「俺もまさか素手でやることになるとは思わなかったけどな」



 言いながら、壁に刺さっている剣を引き抜く。


 さすがは爺ちゃんの剣だ。


 あんな無茶なことをしたのに、傷一つついていない。



「あなた剣士なのよね? なんでそこまでできるの?」



 そう言われて、俺はうーんと悩む。



「いっぱい経験積んだから……かなぁ」



「化け物だわやっぱ。うん、化け物」



「それ褒め言葉でいいんだよね?」



「全力で褒めてるわよ。ね、カレン」



「その通りです! 素手で魔物を殴る剣士なんて聞いたことありません!」



「んじゃま、ありがとな」



 言いながら、俺は前を見る。



「どうやら出迎えてくれるらしい」



 目の前に突如現れた扉を睨めつけ、ニヤリと笑った。

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