鬱陶しいからもう一回斬り落とした。よし、全力で走ろう。
「なあ、何か今音鳴らなかったか?」
「確かに鳴ったわね。カチって」
「何か物でも踏んだんですかね?」
踏んだにしては感覚もなかったし、カチって音が鳴る物なんてダンジョン内にはないだろう。
……いや待て。
あるわ。普通にあるわ。
枝だとか石だとか、そんな物ばっか想像してたから完全に抜けていた。
トラップだ。
「うっわー、最悪だ。トラップの可能性がある。周囲を警戒しろ」
「トラップ!?」
「なんでこんな場所に!? 正規ルートじゃないはずですよね!?」
「んだと思うんだけどな……!」
お互い背中を合わせて警戒態勢に入る。
しかし何も起こらない。
……やっぱり何かの勘違いだったか?
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正規ルートを使わないとは姑息な
それではとっておきのを味あわせてやろう
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俺の目の前に文字列が浮かび上がる。
入り口に立った時と同じ物だ。
「は……? 何いってんだこいつ」
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せいぜい楽しめ
神様からのとっておき――
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とりあえず斬り落とした。
「多分何か来るぞ。鬱陶しい神様が言ってる」
「何か来るって何が――うわ!?」
急に床が音を立てながら斜めに上昇していく。
段差が浮き上がり、階段状になった。
上の方を見上げると、木偶の坊が多く出現している。
「あの大量の木偶の坊を倒しながら上に行けってことか?」
面倒くさいな、なんて思っていると背後からガシャンと言う音がした。
振り返ってみると、俺たちが先程入ってきた穴が塞がれている。
――ガシャン!
というか……壁が閉じていっている?
――ガシャン!
やっぱ閉じていってるよな!?
こっちに迫って来てるよな!?
「リリー、カレン! 上に走れ! これ潰されるぞ!」
「でも上には大量の魔物が!」
「やるっきゃねえだろ! 神の野郎、本当にいい趣味してやがる! これで何人の人間を殺したんだ!」
完全にトラップに嵌められてってことだ!
「俺が全部やる! だから二人は気にせず俺の後ろを走ってこい!」
「嘘でしょ!? 本当にやるの!?」
「相手は再生力化け物ですよ!?」
「ここで潰れるよりかはチャレンジする方がマシだ! 走れ!」
俺は剣を引き抜き、逆手で持つ。
「カレン! ちょっと《打撃強化》のバフをくれ! 魔力は温存しておきたいから軽いやつでいい!」
「分かりました! 《打撃強化》」
俺も同時に、《打撃強化》のバフを発動する。
カレンのバフもあり、飛躍的に効果は上がったはずだ。
ここは気合いで乗り切るしかないな。
暇つぶしの活動で死ぬわけにはいかない。
暇人舐めんなよ神の野郎!
「喰らえ木偶の坊!!」
グリップを相手の胸に向かって思い切り突き立てる。
体全身に衝撃が響き渡り、破裂する。
それをカレンが結界魔法で防ぐ。
やはり相手は数が多いので無数の針が飛んでくる。
これを結界魔法で防ぐことができればいいのだが、生憎とすり抜けてくる。
さすがは生半可な者を通らせない迷宮。
魔物もそれ相応のもんだ。
針と防ぎながら打撃を与えるってのはなかなか苦しい。
だがランニングハイという言葉があるように、少しテンションが上がっていた。
なんせ俺はとびきりの暇人なのだ。
こんな面白い敵とトラップが出てきてドキドキしないわけがない。
「蹂躙! 蹂躙だぁぁぁぁぁ!!」
針が頬を掠めるが気にしない。
後ろにいる二人に当たらなければ全くの無問題だ。
自分が負う傷なんて多少のことなら許してやる。
痛いのは嫌だから全力でやりかえすけどな!
背後からどんどん壁が迫ってきている。
けれど――俺たちの方が速い!
「すごい速度です……相手が相手なのに」
「さすがはケネスだわ! 剣技に関しては負けるやつなんて絶対に存在しないもの!」
「あれ!? 今剣技だけって言った!? もしかして悪口!?」
とりあえず八つ当たりで目の前にいる木偶の坊を一気に十体ほど破壊した。
「悪口じゃないってば!」
「どうだかな!」
最近の若い子は陰湿だったりするかもしれない。
特に歳の差があるのだ。
やっぱり嫌な部分があったりするだろう。
俺もそうだった。
爺ちゃんとは感性が違ったから定期的に喧嘩してたものだ。
クソ……まさか俺にもそれが返ってくる時が来るとは。
それならもう少し優しくしておくべきだった。
歳を取ってから後悔するってのはこのことか。
まだ爺ちゃんピンピンしてるけどな!
「あれは……出口か!」
薄暗い通路、見上げてみると穴が見えてきた。
やっと出口か……。
神様のことだから「出口なんてないぜすまんな!」みたいな展開があるのかと思っていたが安心した。
そうなったらなったで、破壊するまでだけど。
ともあれ俺らと戦う意思はあるってことだ。
なら待ってろよ。今すぐにボコってやるからな。
「これで――最後だ! 穴の中に飛び込め!」
最後の一体を破壊し、俺たちは正面の穴の中に飛び込む。
「痛っ!?」
「ごめん!」
飛び込む瞬間、リリーの体が思い切り直撃し俺は顔面から床に落ちた。
痛む顔を押さえながら、体を起こそうとする。
瞬間、目が合った。
「おいおい……ここでボス戦かよ」
目の前には、先程の木偶の坊とは比較できないほどの巨体があった。