文字列とか面倒くさいから斬り落とそう――え、これって斬らないものなの!?
ここの森は本当に自然が豊かと言うか、豊かすぎて視界が悪い。
木々のせいで日光はほとんど入ってこない。
薄暗い中を進んでいると、
「やっと着いたか」
眼前に捉えるは、件の時計台。
ここだけ木々が生えておらず、ちょっとした広場のようになっている。
時計は未だ時間を刻んでいるらしく、大きな針がガコンガコンと音を鳴らしながら動いている。
正直言って気味が悪いな。神様のことだ。
色々と意図がありそうである。
いちいち気にしていたらやってらんないけど。
「本当にこの中に迷宮があるの?」
「全く迷宮には見えないですね」
「俺もだ。とりあえず入り口っぽいところがあるし、入ってみるか」
時計台の根本には、大きな扉が設置されている。
通常の時計台なら、入っても歯車があるだけだろうが……さて、ここはどうなのだろうか。
俺は入り口前に行って、耳を扉に当てる。
歯車の音が聞こえる。
普通の時計台からは当たり前のように聞こえてくる音。
尚更分からない。
これ本当に迷宮になってるのか?
なんて思いながら扉を開く。
「おお……なんだこりゃ」
扉の奥には巨大な階段が上へと続いていた。
細い時計台だと思っていたのに、巨大な階層のようになっている。
これ、完全に時空が歪んでいるな。
通常のダンジョンで時空が歪んでいる、なんてことは滅多にない。
それこそSランクダンジョンでもレアだ。
万が一あっても、歪みは微小。
これほどまでに歪んでいることはない。
「広いですね。これは苦労しそうです……」
「そうね。さすがは神々のダンジョンだわ」
「まあとりあえず攻略開始だな」
そう言って、階段に足を運ぶと目の前に文字列が現れる。
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神々の迷宮『クリアリー』へようこそ
勇気ある人間たち
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「おお。ここもこんなの出るんだな。これ、やっぱり神々の迷宮特例の出迎え方なのか?」
「さぁ……でもあたしの時もこんなの出たわね」
「丁寧なのかよく分かりません……」
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勇気だけは認めよう
ここまで来れるものなら――
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なんだこいつ。前回の迷宮のやつより偉そうだな。
とりあえず面倒くさそうなので斬り落とした。
「え!? 斬ったの今!?」
「これ斬る人いるんですか!? というか、これ斬れるものなんですか!?」
「あれ? 斬らない? 面倒くさくない?」
「斬らないし普通斬れないわよ……」
「マジで?」
「だって神々が用意した物なんですよ……?」
「嘘ぉ」
二人は困惑した様子で俺のことを見てくる。
え? 鬱陶しくない?
特に今回の文字列、過去一で鬱陶しい感じだよ。
「というか、あなたの剣って何物なの? エルドラの時、私の55口径弾丸にも耐えてたわよね? 普通の剣じゃ無理だと思うんだけど」
そういえばそんなことあったな。
でも剣に興味があるなんてな。ええと、なんだっけか。
「あー……この剣な。俺の爺ちゃんから貰ったものだよ。いい物だから受け取ってくれって無理やり手渡されたものだ」
そう言うと、リリーは苦笑しながら首を傾げる。
「あの……あなたの爺さんって何者なの? 普通の剣じゃないのは間違いないわよ」
「なんだっけか。元剣聖とか言ってた気がする」
あんま記憶にないけど。
そこまで役職とか興味がなかったからなぁ。
というか、爺ちゃん元気にしてるかな。
何かと終わったら久しぶりにでも会いに行くか。
「剣聖!?」
「本当ですか!?」
「ああ。本当かどうかは知らんけど、何回か国を救ったとか自慢してたなぁ」
懐かしいなぁ。
「ねえカレン。やっぱりこの人すごすぎるわよ……!」
「やばすぎますね……! マジヤバな人仲間にしちゃいましたね……!」
「おいおいマジヤバってなんだよ。もしかしてヤバい人って思ってる? 普通に悲しいんだけど」
言うと、二人は全力で首を横に振る。
「違います! いい意味でマジヤバなんです!」
「そうそう! いい意味のマジヤバ!」
「そう……? マジヤバって色々と使い道あるんだな」
やっぱり若い人が使う言葉は分からんな。
まあ俺もそこまで歳が離れているってわけじゃないけど!
多分、そういうのに興味がなかったから知らないだけだと思うけど!
「んじゃ行くぞ。ここで会話をしながらのんびりするのも悪くはないけどな」
どちらにせよ暇つぶしにはなるし。
「そうね! 早速行くわよ!」
「行きましょう!」
お互い拳を握り、階段を上っていく。
壁には多くの歯車が回っている。
見た感じただの装飾だとは思うけど。
さすがにここまで広くて、ずっと歯車があると装飾にしか見えない。
まあ雰囲気作りって考えると、神様も可愛いところあるんだなと思う。
人間の被害を考えたら、普通に可愛くはないんだけどな。
「ふう……上った上った。ええと、ここが実質の第一階層になるわけか」
細い時計台の中のはずなのに、長い通路が目の前にある。
ここまで歪んでいると、錯覚で頭の中がおかしくなりそうだ。
「よし! 頑張るわよ!」
「もちろんです!」
「ああ。死なない程度に気合い入れてこう」