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俺が英雄?暇人ですが……

 俺はひとまずのところ、御者が待ってくれているであろう村に戻ることにした。


 時間は早朝。かなり遅くに迷宮攻略に挑んだから、翌朝になってしまっていた。


「あたしたちもこの村から出たのよ」


「そうなのか。まあここが一番近いしな」


「でも村の人達、大変そうでした」


「ぽいな。神々の迷宮がそれほど悪さをしていたらしい」


 そんな会話をしながら、村の中へと入る。


 まず変わったところだが、村人たちはちょっとした騒ぎになっていた。


 なんだろうか、と思いながら村の中を闊歩する。


 御者が待っているはずなのだ。


 一番目立つであろう場所。


 広場まで行くと、多くの馬車が止まっていた。



「おお……! 生き残って帰ってきたのか!?」



「戻りました。待っててくれたんですね」



「当たり前じゃ! いやー、まさか生きて帰ってくるとは!」



 御者が嬉々とした様子で馬車から降りてくる。


 ひとまず良かった。


 これで俺が死んでいたら御者さんの精神的ストレス半端じゃなかっただろうな。


「それにしてもじゃ。不思議なことが起こってな」


 御者は首をかしげて、こちらに尋ねてくる。


 一体何かあったのだろうかと、俺は腕を組んだ。


「村から強力な魔物の気配が完全に消失したのじゃ。村人たちは歓喜しておるが、同時に困惑しておる」



「魔物の消失ですか」



 少し考えた後、俺はすぐに結論に到達した。



「多分、俺たちが神々の迷宮を攻略したからですね」



「大方ケネスのおかげだけどね」



「ですです」



 そんなことを言うと、御者は口を開いたまま停止する。


 しばらく時が止まった後、震えた手で俺の肩を掴んできた。



「本当に攻略したのか?」



「はい」



「生きているのは奇跡的に逃げ帰れたわけではなくて、攻略したからじゃと……?」



「そうなりますね」



「ええぇぇぇぇぇぇ!?」



 御者は声を荒げながら叫ぶ。


 それほど驚くものだったのだろうか。


 ああ、まあ神々の迷宮って攻略した人がいないんだっけか。


 それなら驚かれるのか。



「これは騒動じゃ……村人たちに伝えなければ!」



「あ、そこまでしなくても――」



 と、俺が止めようとしたのだが先に御者が走っていってしまった。


 ああ……これもっと騒ぎになるかもな。


「いい人ね」


「ですね」


「まあそうだな。あそこまで親身になってくれる御者なんてなかなかいない」


 なんて会話をしていると、御者が多くの人々を引き連れて戻ってきた。



「彼らが神々の迷宮を攻略し、この村を救った英雄じゃ!」



 そう声高らかに宣言すると、村人たちから歓声が上がる。


「嘘だろおい!」


「あの迷宮を攻略したのか!?」


「英雄だ! この村を救った英雄だ!」


 英雄、英雄、英雄……俺が?



「いや、俺は単純に暇だったから攻略しただけで……」



「謙遜なさったぞ!」



「ここまですごいことをして謙遜するなんて、すごいお方だ!」



「さすがは英雄様だ!」



「ええ……なんで英雄なんだ」



 困りながら隣を見ていると、二人は少し嬉しそうにしていた。


 そうか。彼女たちの夢は『人々の心に刻まれること』。


 これはある意味、彼女らにとっての一歩なのかもしれない。


 俺が暇だったからって理由が大方を占めているのがあれなんだけど。


「よかったな二人とも」


「いや、ケネスがすごいのよ。ねえカレン?」


「そうです。ケネスがいなかったら、私たちは無理でしたから」


 ……確かにそうなるのか?


 でも俺はあくまで手伝っただけだしな。


 というか、自分の目的の延長線上に彼女たちがいた。


 それが正確だ。


 少なくとも、彼女たちの夢に共感して、一緒に挑もうと決めたのには違いないけど。


 あくまで俺は暇人でしかない。


 そう逡巡していると、バタバタとわざとらしい足音が聞こえてきた。


 人混みの中をくぐって、こちらに向かってきている。


 なんだろうと思っていると、一人の男が剣を持ってこちらを睨めつけてきた。



「お前らが英雄? 神々の迷宮を攻略した? 嘘を吐くにも限度があるぜ?」



 なんだか面倒くさそうな人が絡んできたなぁ。


 俺が頭をかきながら、無視を決め込もうと思っていると。


「こんなクソガキが攻略なんかできるわけねえ。俺はな、調子に乗っているクソガキを見るのが嫌いなんだよ」


 言いながら、男がリリーの胸ぐらを掴む。



「ちょっと……!?」



「俺は村一番の男だ。本来英雄になるのは俺様なんだ。気に入らねえ、お前面貸せよ」



「やめてください!」



 カレンがどうにか話をしようとするが、相手は全く聞く耳を持たない。


「お前もだ。お前も面貸せ。徹底的に調子乗ってるところを矯正してやる」


 村人たちが静まり返る。


 誰もが不安を抱いているようだった。


 ……全く。


 こういうのは本当にやめてほしい。



「おーい。そこのオッサン。俺を無視して、何少女の方に絡んでんだ」



「……なんだ! 邪魔すんなよ!」



「邪魔だ? おいこら、暇人相手に邪魔なんて通用しないぞ? 逆に喜んで相手してやるがどうする? 少女たちより楽しめると思うぞ?」



「……クソ!」



 そんなことを言って、男が俺に掴みかかろうとしてくる。


 俺は咄嗟に回避し、相手の腕を掴む。


 そのまま、放り投げた。



「うがっ!?」



 倒れ込んだ男を見て、俺は嘆息した。


 全く絡んでくるなら、もっと勇気を持って絡んでこい。



「さ、さすがは英雄だ! 圧倒的に強い!」



「やっぱり彼らは英雄だ!」



 村人たちに再度、炎がついたかのように歓声が上がる。


 ああ……だから英雄じゃないんだけどな」



「ありがとう。助かったわ……」



「いいんだ。逆によく手を出さすに耐えた。汚れ役は俺だけでいい」



 なんて言っていると、御者が近づいてきた。


「ところでなんじゃが。お主、まだまだ神々の迷宮に興味があるか?」

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