追放後の二人(エド視点)
「やっと器用貧乏がいなくなったな!」
「そうね! 本当、あいつ嫌いだったのよね。なんだか癪に障るのよ」
ケネスが神々の迷宮を攻略中のこと。
エドたち二人はギルドの会議室でケラケラと笑っていた。
それもそうで、厄介者であったケネスを追放することができたのだ。
これで文句を言われることもないし、報酬金も増える。
さらにお金を使うことができるわけだ。
しかし、彼らは何も考えていなかった。
ケネスがこれまでやってきたこと。
パーティに貢献してきたことがどれだけ大きかったのかを。
「やっと一人いなくなったわけだし、早速依頼を受けてお金でも稼ぐ?」
アナがエドの肩に触れて、くすりと笑う。
それを見て、エドは満足げにアナの頭に手を置いた。
「そうだな。早速依頼でも受けて、デート代でも稼ぐとしよう」
「やったー! 今度はどこに行こうかな~!」
二人は会議室を出て、楽しげに廊下を歩く。
普段なら厄介者が隣にいたが、今はいない。
文句を言う人がいないと、ここまで楽だとはな。
ギルド中央までやってきた二人はカウンターまで行き、受付嬢さんの前に立つ。
「噂をすれば……こんにちは。エドさんアナさん」
受付嬢さんは嫌な顔を浮かべる。
生憎と二人の性格上、ギルドからよく思われていなかった。
そのため、彼らはSランクパーティと呼ばれているが個人に対してはSランクの称号は付与されていない。
そもそも論。
『龍の刻印』がSランクパーティとして認められたのはケネスが所属していたからと言ってもいい。
ギルドは彼個人の実力をかなり大きく見ていたのだ。
しかし二人は知らない。
ギルドからよく思われていないことも、自分たちの実力が不足していることも。
「ケネスさんは追放したと聞きましたよ。どうされたのですか?」
「あいつは器用貧乏なお荷物だから捨てた。受付嬢さんもそう思うだろ?」
「……私としては残念です」
「本当に残念だよな! あいつは!」
「ははは……」
完全に話がすれ違っている事実に、受付嬢は苦笑を呈する。
もう乾いた笑いしか出ないといった感じだ。
「それで依頼を受けたいんだけど、何かいい感じの頼むわ」
「依頼ですか。ええと……引き継ぎってされてますか?」
「ん? 引き継ぎ?」
エドは首を傾げる。
引き継ぎってなんだろうか。
別に何か引き継ぐものなんてないだろうに。
もしかしてケネスのことを言っているのか?
それなら、尚更引き継ぐものなんてないだろう。
なんせあいつは何もしていないのだから。
「これです。こんなにも大量の依頼書が『龍の刻印』宛に届いております」
「は……? なんだこれ?」
思わずエドは顔をしかめてしまう。
どっさりと置かれた依頼書を前に困惑するしかない様子だった。
「依頼の調整、管理などは全てケネスさんが行っていました。依頼主さんとの交渉も全てです。引き継ぎされていないとなると、かなりのトラブルは発生するかと……といいますか、すでにトラブルに陥っていると言ってもいいかもしれません」
「は? それってギルド職員の仕事じゃないのか?」
「確かに管理はしますが、あくまで依頼主さんから依頼書を受け取るだけです。基本的に調整や交渉などは冒険者様に任せております」
となると、これだけの量をケネスが捌いていたということになる……のか?
いや、違うな。あいつは器用貧乏なだけで、最低限しかしていないはずだ。
しかもこれくらいどうってことはない。
これでトラブルなら些細なことでもトラブル扱いになる。
「まあいいや。適当に報酬金が高い依頼を受けるわ」
「そうなりますと、他の依頼主さんに交渉を――」
「必要ない! 少ない金額しか払えない依頼者は客じゃねえよ!」
「ですが信用問題が……」
「関係ないね。な、アナ?」
「そうそう。これくらいどうってことないわ」
二人は自信満々で言うと、受付嬢は嘆息する。
「かしこまりました。一応言っておきますが、当ギルドは責任を持ちません。しかし何かあればそれ相応の対応をしますので、覚えておいてください。私たちのギルドに所属している以上は、責任がこちらにもありますので」
「へいへい。まあ適当にっと。んじゃ、この依頼にするか」
ハイタイガーの討伐依頼を手に取り、エドは踵を返す。
「さっさと達成して報酬金で楽しもうぜ」
「そうしましょ!」
言いながら、去っていく二人を見て受付嬢さんは呆れる。
「時間の問題でしょうね。今のところは大丈夫かもしれませんが」
破滅は、着実に歩みを進めている。
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