表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
情愛  作者: Nas
1/2

1

「あのさあ、俺たち、仕事とかで結構ずっと一緒にいるじゃん?」


 俺たちの冠番組の収録前、楽屋に行くと、メンバーの一人がそこに静かに座っていた。

 なんとなく魔が刺した俺は彼の隣に座り、そう言葉を投げかけた。


「そうだね」

「心理学的にはさ、たくさん会う人のことを好きになるんだって。だから、俺が今ここでお前に好きだって言っても間違いではないよね?」

「んー……」


 読んでいた雑誌をぱたんと閉じて上を向く彼。俺が思っていたよりもずっと真剣に悩むその横顔に、そんなつもりなかったのに、やばい、めちゃくちゃ悩ませてる。そう思った。


「あのさ、そんな悩むことだった?」


 このまま放っておいたら、なんだか永遠に悩み続けられそうで、慌てて声を掛ける。

 彼は、俺の声に反応し、こちらを見て大きな瞳を二度ほど瞬かせた。


「おれ、好きな人、いるんだけど」

「あー、わかるよ、言わなくても。誰か」


 もはやメンバー公認じゃない?なんて、余計なことは言わない。彼は苦笑いを浮かべて、だよね、なんて呟く。


「なんでそいつのこと好きなんだろうって考えたんだけどね、辛かった時、ずっと隣にいてくれたからだなって。だから、ただ一緒にいるだけじゃなくて、タイミングも大切だと思うよ、おれは」

「そっかあ、だよね」

「そんなこと言っても、おれ、メンバーみんなのことちゃんと好きだからね」

「……ありがとぉ」


 これ以上はなんだか照れくさくて、逃げるようにして外に出た。と言っても行くあてなんかないけど。俺は、ふらふらと吸い寄せられるようにして楽屋近くの自販機でコーヒーを買い、ベンチに座った。


「はは。あそこまで言われたらもうなんもできないじゃん……」


 ずっと一緒にいると好きになる。なんて、誰が言ったんだろう。

好きになったのは俺だけで、あの子はもうきっとあいつのもんで、つまりこれはただの行き場のない片想いで。


「はー、つら」

「おい、背中丸いぞ!」


 背後から声をかけられて振り向く。そこに立っていたのは、所謂シンメトリーの俺の相棒。


「なんか落ち込んでる?」

「…お前にはなんでもわかっちゃうんだなぁ」


 流石、相棒。心の中で呟く。声に出したらきっと調子に乗るだろうから。


「そりゃあ、そうだよ。だってずっと隣でやってきたんだから」


 そう言うと彼は、俺の手に握られていたコーヒーをひったくった。抗議の声をあげる暇もなく封を切られたそれは、彼の喉を通って胃におさめられていく。彼のよく目立つ喉仏が、上下している。まるでビールでも飲むかのようにごくごくと音を立てながらコーヒーを半分ほど飲み干したところで、彼はそれを俺の座っているベンチに置いた。


「それ飲んで元気出せよ」

「いや、元々これ俺のだし!」


  彼は楽しそうに笑って背を向けた。そんな彼のうしろ姿に俺は抗議の言葉を言い放つ。更に楽しそうに笑って去っていく彼の顔が嬉しそうに綻んでいたのを、俺は知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ