表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十二章-友
99/171

友情

「何を考えているんだい?」


 ヒュウガの言葉にレオンハルトは現実へと引き戻される。

 そのままグラスをテーブルに置き、彼は静かに語り始めた。


「シュヴァルベの復讐についてだ。

 どうも何か胡散臭いところがあってな。」


「胡散臭い?」


「ああ。まず復讐の相手だ。

 リーマン先生の人柄については、俺もある程度知っている。

 あの人はどちらかと言えば反階級社会的な考えを持っていた人だ。

 身分違いの恋に首を突っ込んで、親子を引き剥がすような真似はしないだろう。」


「だが二十年以上前だぜ? お前ぇさんだって生まれてないだろうに?」


「それはある。

 場合によっては、その件が元で宗旨替えを行ったのかもしれん。」


「しかし、身分違いの色恋沙汰ねぇ……。

 確かにどっかで聞いた話だ。」


 どことなく困惑した表情で、ヒュウガはレオンハルトの顔を見る。

 レオンハルトは苦笑しながら言葉を続けた。


「まあ、先生が関係した上で身分違いという事が出るならば、十中八九リューガー家絡みだと考えられる。

 まあ、あの一族は比較的身持ちは固い部類ではあったが、それでも浮いた噂がなかった程じゃない。

 確かリューガー家の最後の代は男性で、弟、妹はいなかったはずだ。

 従って、末代当主の御落胤がシュヴァルベという事になるな。」


「可能性が高い、と言うべきだぜ?」


 そう言うと、ヒュウガが手酌でグラスに酒を注ぐ。


「そうだな、その通りだ。

 だからこそ、おかしい。」


「どういうことだ?」


「覚えていないか?

 リューガー家の滅亡に至った、重要なキーポイントを。」


「ツェッペンドルンか……。」


「そうだ。

 言ってみれば彼女の父親はあの事件で殺されたようなもの。

 だとしたら、だ。

 自分の親を殺された恨みと、両親から引き剥がされた恨み……心情としてどちらが勝ると考える?」


「フ……ン。

 普通は親を殺した方だな。

 そうなりゃ、またぞろお前ぇさんの命が狙われるワケだ。」


「無論そうなってもおかしくはないだろう。

 表向きは俺と教授があの事故を起こした訳だからな。

 だが、奴はそんなことをおくびにも出さなかった。

 生き別れていた自身の母親がリーマン先生への恨みを口にしたと言ってはいたが、それだけで仇の娘の命を狙うだろうか?

 むしろ、父親を殺した張本人へ恨みを向ける方が得心が行く。」


「言わんとすることはわかるぜ?

 確かに、俺にも妙な引っ掛かりがある。」


「それは?」


「ヤツは仇を討つ最大のチャンスを逃している。

 覚えているか? 林道で教授を襲撃した時だ。」


「そうか。確かお前とエレナが対峙した形になって、それにシュヴァルベが割り込んだんだったな。」


「あの時、シュヴァルベはエレナを助ける形で俺と戦った。

 それって、助ける必要なんかあったのか?」


「まあ、一応我が手で決着を……という思惑があったかもしれん、と説明はつくが……。

 それより問題はそのあとだ。

 そのあと、奴は俺たちに接触し、そして最終的にはエレナと二人きりになっている。」


「二人きり?」


「ああ。俺は教授を目的の場所まで運んでいった。

 用心棒たちが四人ほどいたが、バラバラに散っていったと考えれば、残るのはエレナとシュヴァルベの二人だけになる。」


「お前ぇの言う胡散臭さ、俺にも臭ってきたぜ……。

 ヤツの腹ン中はわからんが、何か隠してるのは間違いねぇな。」


「いずれにせよ、敵対を明言したんだ。迎撃は必須だろう。

 できる限りで構わん。協力を頼む。」


「そのつもりだ。」


 ヒュウガは空になった二つのグラスにウィスキーを注ぐと、片方を目の高さまで軽く持ち上げた。

 それを見たレオンハルトは、自分のグラスも同じく掲げる。


「再会にカンパイだ。」


「ああ。」


 カチンとグラスが鳴った。

 親友の二人は、喜びを噛みしめながら、ウィスキーを飲み干す。


『この二人なら、きっとうまくいく。』


 三年前の事件に首を突っ込んだ時と同じ感覚が、二人の間にまた生まれていた。

 ただ、今回は自信を経験が裏打ちしている。

 若さゆえの暴走とは違う落ち着いた自信が、それぞれ今の二人には備わっている。


 グラスの酒を飲み干し、お互いに微笑み合う。

 そこには確かに、昔通りの信頼関係――友情があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ