復讐
ミナトは、エレナへそっとグラスを差し出した。
グラスには琥珀色の液体が注がれており、特有の香りが漂っている。
「ありがとう、ミーナ。」
エレナは感謝の言葉と共にそのグラスを受け取り、わずかに口をつける。
ミナトもまた、もう一つのグラスに口をつけ、そっとエレナに語りかけた。
「大丈夫? 落ち着いた?」
「ええ。もう平気。
でも我が身となると、ようやく解ってくるわね。教授の気持ちも。」
「どういうこと?」
「命を狙われるっていう恐怖よ。
あなたたちがいてくれるのは心強いけど、それでも不安は拭い切れない……。」
「大丈夫です。」
空間から、スウッとコムが姿を現した。
「僕のフィールドを貫ける魔法は存在しません。
まして物理攻撃なんか全部弾いてやりますよ。」
エレナはコムのこの言葉に苦笑しつつ、また少しグラスに口をつけた。
「でも、こんな復讐なんて絶対によくない……。」
ミナトがポツリとつぶやいた。
「確かにあたしの言えた義理じゃないけど、そんな……本人に気持ちをぶつけない復讐なんてあっちゃいけないよ……。」
「自己満足……か。」
「え?」
「あの女の言った言葉よ。
確かに死んだ人間のために復讐しても、向こうが喜ぶかどうかなんて解りっこないわ。
でも、本人には何かを成したという達成感は残る。
それが仇討ちと言う行為の本質よね。」
「そうだね……あたしはそれにギリギリで気づくことができた。
あの人が命を賭けてあたしの相手をしてくれたから、気づくことができた。」
ミナトがまた一口、グラスのウィスキーを口にする。
「私はそんな真似はできないわよ?
自分の身を守るのが関の山。相手を諭すつもりもないわ。
大体あの女は自分の行為の意味を知り、理解した上で私を襲うんだから、こちらの言葉に耳なんて貸すはずがないし、ね。」
それだけ言うと、エレナは少し多めにウィスキーを喉へと流し込んだ。
「さ、寝ましょう?
じゃあ、お坊ちゃん。警戒よろしくね?」
「ですから、その呼び方やめてくださいよ。」
夜が更けていく。
エレナとミナトは各々のベッドに潜り込み、やがて静かな寝息を立て始めた。
コムも警戒を続けたまま、省エネルギーモードへと遷移し、部屋には、外の雑踏の音のみが響くようになっていった。




