表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十二章-友
97/171

人工心臓

「こうして酒を酌み交わすのは何年振りかね?」


 ランプの灯りのみの薄暗い部屋の中、微笑みながらヒュウガはレオンハルトの酌を受けた。

 レオンハルトもまた、軽い微笑みを浮かべ、ヒュウガの酌を受ける。


「三年ぶりだ。忘れもしない、レシウス昇天祭の大騒ぎが最後だったろう?」


「ああ、そうだった。

 それであのオヤジが目の間で斃れて、時計塔、だったな。」


「そうだ。

 あの後どうしたんだ? 正直なところ、心が壊れかけたんだぞ?」


 ヒュウガは、注がれた酒をチビリとやって、瞳を伏せた。


「それについては謝る。

 だが、コッチもこいつが軛になってな。」


 そう言うと、ヒュウガは胸元のタイを取り払い、鎖骨の真ん中に埋め込まれた機械を露出させた。


「やはり人工心臓か……。」


「流石だぜ。話が早い。

 コイツのせいで俺も完全に行動が制限された。

 堀に落ちた俺を助けたのが『影の兵士隊(シャッテンクリーガー)』だ。

 まあ助けてもらった義理もあって、任務の手伝いを始めてな。まず真っ先に南方の偵察任務さ。

 そのまま北東の最前線、諜報活動で敵国内のアチコチを飛び回り、帝都に帰ってきたのは半年前。

 そこからすぐに教授の件だったからな。」


 ヒュウガの言葉を聞き、レオンハルトが尋ねる。


「お前が義理堅いのは今に始まった事じゃないが……そこまで言いなりになるのは何か訳があるんだろう?」


 ヒュウガは悔しそうな表情を見せて、レオンハルトに答えた。


「ああ。コイツは時折俺を裏切りやがる。

 全開での戦闘を行おうもんなら、数分で息が切れて地獄の苦しみだ。」


 それだけ言うと、ヒュウガはグラスの酒を一気に飲み干す。

 再びレオンハルトは彼のグラスに酒を注ぎ、ヒュウガはまた口を開いた。


「何でも部隊の医者が言うには、俺が全開で戦闘する場合、常人が見せる範囲を遥かに超える心拍数と血圧になるらしい。

 しかし、だ。この人工心臓ってヤツは、飽くまでも常人の範囲でしか血の流れを制御できない。

 そのおかげで、本気出したら、即呼吸困難になるって寸法らしいな。」


「そうなった場合の対処は?」


 心配そうなレオンハルトの顔を見て、ヒュウガは自身の旅装を漁り始めた。


「ソイツを制御する機械ってのがあってな……。

 ああ、コイツだ。」


 ヒュウガはテーブルの上に五本の筒状の機械を転がした。

 レオンハルトはその筒を真剣な目で観察する。


「コイツで一時的に心臓へブーストをかける。

 その後、緩やかに本来の範囲へ戻していくんだが、コイツは使い捨てでな。

 製造できるのは本部のみときた。」


 レオンハルトは筒を目の前に持ち上げ、ヒュウガに尋ねた。


「これを一本俺に預けてくれないか?

 分解して中身を見れば、俺でも量産できるかもしれん。」


 ヒュウガは少し迷った風を見せた後、レオンハルトへ静かに答えた。


「生憎だがそれはできんな。」


「なぜ?」


「お前を信用してないワケじゃねぇ。

 だが、今手元にあるのはそれだけの上、入手できるのは帝都だけだ。

 それにお前が量産するのも帝都での話だろ?

 だったら、確実に手に入る場所の方が安全だ。」


「だが、軛は断ち切れる。」


「そうだな……悩ましいね、全く。」


 それだけ言うと、ヒュウガは再び酒をチビリとやる。

 レオンハルトも付き合うように一口酒を飲むと、すっかり日の暮れた夜の街を窓越しに眺め、ぼんやりと何かを考え始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ