謝罪
警備隊の応接室にレオンハルトは通された。
件の三人の顔は、悲痛なまでに青褪め切っている。
「いつまでいるんだ? 手前ぇら。」
「は……取り調べでしたら、ご同席できれば、と……、」
ヒュウガは大きくかぶりを振って、三人に告げる。
「取り調べじゃねぇよ。情報提供をお願いするんだ。
いいか、繰り返し言うぞ。
『お願い』だ。あちらにお頼みするんだよ。
わかったら失せな。」
「そ、それでしたら、最高級のウィスキーがそちらの戸棚に……。」
その言葉が言い終わるか否かのタイミングで、苦虫を噛み潰したような顔でヒュウガが口を挟んだ。
「いいか? 手前ぇら既に軍法会議モンの失敗してるんだ。
これ以上俺の心証悪くしたら、本気で吊るすぞ?」
ヒュウガの放った最後の一睨みを受け、三人はすごすごと部屋から出て行った。
それを見たヒュウガは、最敬礼の上、レオンハルトに上座への着座を勧めた。
勧められるまま着座するレオンハルトを見たヒュウガもまた、対面のソファへと着座する。
落ち着いた頃合いを見計らい、ヒュウガが口を開いた。
「俺の不手際だ。容赦してくれとは言わん。
だが情報だけはいただきたい。
身勝手だが、頼む。」
ヒュウガは深く頭を下げ、レオンハルトに頼み込む。
彼の頭の上から、レオンハルトの小さな笑い声が聞こえてきた。
顔を上げるヒュウガの前には、苦笑するレオンハルトの顔があった。
「不当な扱いには慣れている。
別に気にしちゃいない。」
今度は、その言葉を聞いたヒュウガが苦笑する。
「相変わらずの皮肉屋だな。お前ぇも。」
お互いの頬が綻び、わずかだが温かい雰囲気が漂った。
だが、次の瞬間、双方の顔が引き締まり、本題へと入っていく。
「教授の件だな。」
「ああ、ヤツは本当に死んだのか?」
「死んだ。あの場所に彼奴の死体が転がっていたのは間違いない。」
「くどいようだが、本当に死んだと、そう言い切れるんだな?」
「少なくとも、あの場所に彼奴自身の死体はあったとまでしか言えんな。」
「含みがあるじゃねぇか?」
ヒュウガの言葉を最後に、一旦言葉が途切れた。
レオンハルトは瞳を閉じ、ゆっくりと口を開いた。
「一つ考えたくない推測がある。」
「どんなモンなんだ?」
「戦闘用の人形に、彼奴自身の記憶、意識、そして思考を移し替えて復活したという可能性だ。
正直、涜神的な研究の結果ともいえる。
これが実現していたとしたら、彼奴を止めるためにはかなりの犠牲が必要になりかねん。」
レオンハルトの真剣な眼差しを見たヒュウガは、何も言わず口に手を当てた。
「無論これは俺の推測にすぎん。
だが、状況証拠はかなり揃っているとも思える。
実際お前も、教授生存の恐れがあるから行動してるんじゃないのか?」
「確かにな……。」
口に手を当てたまま、ヒュウガはレオンハルトの言葉に考えを巡らせた。
教授の死、そして復活。
果たしてそれが、どこまで信憑性のある話なのか、それを考える。
熟考……。
やがて考えのまとまったヒュウガは、おもむろに口を開いた。
「わかった。
お前ぇの今回の調査行、俺も同行する。」
「どういう風の吹き回しだ?」
「どうも今回の件、お前ぇが鍵になりそうだ。
なんか全部、お前ぇを中心に回ってる雰囲気がある。
そんな臭いがするのさ。」
ニヤリと笑いながら語るヒュウガに、レオンハルトは苦笑で答えた。
だが、その内側にある安堵もまた、苦笑の中に見え隠れしている。
お互いに心の整理がついたところで、改めてヒュウガが口を開いた。
「さて、そうなると色々と情報交換が必要だな。」
「どこまで明かしてもらえる?」
「大まかなところまでさ。
と言っても、コッチの知っていることはお前ぇさんとどっこいだ。」
ヒュウガは立ち上がり、大きく伸びをする。
その後、思い出したかのように、ポツリと言った。
「そうだ、片づけなきゃならん問題もあったな……。」