獄内
レオンハルトが投獄された牢には先客が五人ほどいた。
皆、凶悪そうな面構えを見せ、新入りの優男を睨みつける。
「へぇ、ずいぶんなお坊ちゃんがやってきたねぇ。」
やや大柄な男がニヤリと笑い、寝台に腰かける。
それに続いてやや小柄な男が偉そうな口調でレオンハルトを怒鳴りつけた。
「おぅ、新入り!
外で何やったか知らねぇが、ここじゃ俺が法律だ!
まずは挨拶だ。俺の靴を舐めて『よろしくお願いします』と土下座しな!」
レオンハルトは呆れたようなため息をつき、そのまま奥の寝台へと腰掛ける。
それの様子を見た男、そしてそれだけでなく、他の連中も一様に気色ばみ、レオンハルトを取り囲んだ。
「いいか、もう一回言うぞ。
ここじゃ俺が法律だ。痛ぇ目みたくなきゃサッサと……。」
「随分暗いな。」
吠える男の目の前で、レオンハルトはわざとゆっくり魔導球を練り上げる。
取り囲んだ男たちは、恐怖の色を顔に浮かべて、一斉に後ずさった。
『照明』の魔法を発動したレオンハルトは、手錠をかけられた手で懐を探り、一冊の本を取り出して読み始める。
「で、痛い目とはどういう目だ?」
本から目を離さずに呆れたままの声で尋ねるレオンハルトを、男たちは怪物を見るような目で遠巻きに眺めるしかなかった。
一般人にとっては魔導士と言うだけで恐ろしいものだ。それがなぜここにいるのか、それすらも解らないのでは、もはや無視する以外何も方策はないだろう。
レオンハルトが数ページをめくった辺りで、監獄の外が騒がしくなってきた。
耳を澄ますと、数人の足音が近づいてきている。
「おい、本当にレオンハルト・フォーゲルなんだな?」
「はっ! 何分魔導士とのことでしたので、大変な苦労をして取り押さえた次第であります!」
牢の外に人影が四人現れた。
うち一人は狼の顔を持つ獣人――ヒュウガだ。
『影の兵士隊』の黒コートではなく、一般的な戦闘服をラフに着崩しているヒュウガ。
その彼が、牢の中にいる親友を見た瞬間、表情が一気に冷徹な物へと変化した。
「少尉。俺の命令は何だったか復唱してくれねぇか?」
「はっ、関所を越えようとするレオンハルト・フォーゲルなる学術師を拘束すること、であります!」
少尉と呼ばれた警備兵は、得意満面の笑顔で敬礼を行う。
その後ろでは、レオンハルトを捕らえた二人の警備兵が同じく得意そうな笑顔を見せている。
ヒュウガは牢の中から目を離すことなく、三人に対して口を開いた。
「いつ俺が『拘束しろ』と命じた?」
「はぁ?」
間抜けな声を発する少尉にヒュウガは冷たい声でさらに言葉を続ける。
「俺の命令は、レオンハルトの身柄を確保しろ、だろうが。
アイツは、俺の作戦行動における協力者だ。
これでへそ曲げられて作戦がご破算になったら……手前ぇ……吊るすぞ?」
恐ろしいまでの殺気を放ち、ヒュウガは肩越しに三人を睨みつける。
「は……はっ、しかし『丁重に』とのことでありましたので、何か含みがあるのかと……はい……。」
「そう言った含みは、手前ぇらの身内だけで十分なんだよ。
言われた通りのコトこなせない軍人なんざ、そこにぶち込まれてる下衆どもにも劣るぜ?」
少尉の顔を見下ろしながら、ヒュウガは静かな、そして殺気を込めた声のまま詰め寄っていく。
「やることはわかるな、少尉さんよ。」
「は……申しわけありません……。」
「謝る相手が違うんじゃねぇか?」
後ろに控えていた警備兵が、大慌てで牢の鍵を開く。
その様子を見たヒュウガは、大きなため息をついて頭を掻いた。
警備兵はバタバタと牢の中に入り、レオンハルトの名を呼んだ。
「お、おい、レオンハルト・フォーゲル。
釈放……っ!!」
この最後の一言が出た瞬間、鉄格子の合間からヒュウガの腕が飛び出し、警備兵の襟首が掴まれた。
ヒュウガはそのまま警備兵を鉄格子へと一気に引き寄せ、耳元で囁く。
「なぁ……手前ぇ、俺の話聞いてたか?」




