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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十二章-友
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歪んだ欲望

「レオン、一つ聞かせて頂戴。

 なぜ教授が人形(ひとがた)に自分自身を移し替えたと考えるの?」


 クラレスまでの道中、エレナがレオンハルトに問いかけてきた。


『転移』の使用後の休憩を取るため、河原で顔を洗っていたレオンハルトは、アッシュブロンドの髪をかき上げ、エレナの問いに答える。


「君はあの男のプライドの高さをよく知らないだろう?」


「そうでもないと思うけど……そんなにひどかったの?」


「ああ。前任の学部長との対立はかなりのものだったし、同僚の学術師に嫉妬し、妨害ギリギリの働きかけをしたこともあるらしい。

 学部長の座に座ってからは少し落ち着いていたが、それでも二年前からまた癇癪がひどくなってきたのは君も言っていたじゃないか。」


「んー……それと今回の考えがどう繋がるか、あたしも聞いておきたいな。」


 顔を拭うレオンハルトへ、水筒に水を汲み終えたミナトも言葉をかける。

 レオンハルトは近くの岩にもたれて座り、ゆっくりと自身の考えを語り始めた。


「あの男は『力』を欲していた。

 ここで言う『力』とは、あの男の我儘を押し通せるための手段だ。

 故に、権力でも財力でも、無論武力でもいい。何かの『力』を渇望していた。

 一時ではあるが、権力は得た。

 だが、その権力は限定的で、さらに大きな権力の前では全くの無力であることを思い知らされたと、俺は推測する。」


 一息つくレオンハルトに、エレナが相槌を打つ。


「学部長の椅子と学院長の存在、というわけね。」


「そうだ。

 権力では無理だ。また同時に、財力を今から蓄えるのは難しい。

 だとすれば、最も単純で、最も安易で、そして最も近道になる物をあの男が目的としたとは考えられないだろうか?」


「それが武力? 違うね、この場合は暴力だよ!」


 憤慨した様子のミナトが口を挟む。


「そうだな。ミーナの言う通りだ。

 武力とはコントロールされた暴力とも言える。

 逆に言えば、倫理にコントロールされない武力は暴力であるとも言えるだろう。

 そしてあの夜、彼奴は暴力にすがり、そして自らを消した……。」


「不気味な話ね……。

 でも、そんなこと、あの男にできたのかしら?

 自分の複製(コピー)を人形に移し替えてそれを自分と見なすなんて、相当の度胸か、病的な思い込みがなければできない真似よ?」


 訝しげなエレナの視線を無視し、レオンハルトは答えた。


「それをやったんだ……多分な。

 彼奴はかなり追い込まれていた。

 学術院に対しては極秘の作業。しかもそれはパトロンからの猛烈な突き上げを喰らっていた。おまけに、それが露見するのは時間の問題だとも薄々感づいていただろう。

 八方塞がりを打破するための銀の弾丸……それが暴力だ。

 あらゆる人間を超越した、権力も財力も不要な存在に憧れを抱き、それを得るため行動を起こした。

 俺の推測はそんな所だ。」


 しばしの沈黙……そこへ不意にミナトが口を開いた。


「じゃあ、オルセン公の件ってひょっとしたら……。」


「復讐の可能性は高いな。

 自身のプライドをズタズタにした人間への恨みを晴らしたのかもしれん。」


 遠くを見るような目をして、レオンハルトはつぶやくように言う。

 そんな言葉に、ミナトも、エレナも、何も言えないまま口を閉ざしてしまった。


「あの……そろそろ行きませんか?

 次の宿場町では、また手続きが必要です。」


 コムが恐る恐る口を挟んできた。

 それを聞いたレオンハルトは、ゆっくりと立ち上がり、ズボンの埃を払う。


「そうだな、急がないといかん。

 次の関所を越えればアルバーン公爵領だ。

 向こうに入りさえすればクラレスは目と鼻の先になる。

 状況も確認したいから、次で一泊した方がいいだろうな。」


 エレナとミナトはレオンハルトの提案に軽く頷くと、足元に置いた背嚢を持ち上げた。


『転移』の魔法が準備される。

 行先は交通の要所、グレッツノーストだ。


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