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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十一章-遺跡
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最悪の予想

 管理室での野営。

 幸い、奥に電熱器を配したエリアが発見されたので、レオンハルトたちはそれを利用することにした。


「おもしろいね。

 こんなものまであるなんて。」


 湯を沸かし、干し肉を炙ったミナトが、頬をほころばせながら言う。


「ここの部屋を使っていた人間は結構長居をしていたのかもね。

 昼夜問わずの徹夜作業で食事を何とかする必要があったとか、かしら?」


 沸かした湯を使って粉末のコーヒーを淹れるエレナ。

 レオンハルトは、先の制御卓に座り、画面を見ながら携帯食料を頬張っている。


「ねえ、レオン。コーヒーはいらない?」


 その言葉を聞いたレオンハルトは、ミナトの顔を見て即答した。


「頼む。少し頭をすっきりさせたい。」


 いそいそと嬉しそうに電熱器へと向かうミナトを横目に、エレナが真顔でレオンハルトへ尋ねてきた。


「何か問題がありそうね。」


「ああ……。

 ここは『回路(サーキット)』を錬成する工場だ。これはいいな?」


「ええ。」


 二人が会話し始めたのを見たミナトは、邪魔にならないように、そっとレオンハルトへコーヒーを差し出す。

 レオンハルトはミナトに向けて小さく頷き、受け取ったコーヒーを一口啜った。


「問題はここからだ。

 先ほど練成作業の履歴を確認したのだが、ここ数年で最低三つの『回路』が練成されていると記録にある。」


「どういうこと? 三つ?

 熱線砲にそこまで『回路』が必要かしら?」


「そんな訳はない。

 熱線砲の稼働には一つの『回路』で十分だ。

 制御装置には、それ自体が稼働するための『回路』が内蔵されているから、外部からのエネルギー供給の仕組みは不要だろう。

 それに、だ。

 練成された『回路』は、ただのエネルギー発生型だけじゃない。

 かなり複雑な、複合型の『回路』も練成されている。

 それも、二つ。」


「まるで見当のつかない話ね……。

 今までの情報を総合して考えると、熱線砲それ自体はほぼ組み立てのみの状態にも関わらず、教授はさらに資金と人員の増資を願い出ていた形になるわよね?

 そしてこちらでも使途不明の『回路』を錬成している……。

 教授の真の研究は、別にあったということになるのかしら?」


 複雑な表情で思慮を重ねるエレナに、レオンハルトは短く言った。


人形(ひとがた)だな……。」


「人形? この間もそんなことを言っていたけど、何か根拠があるの?」


「鍵はバルメスの遺跡だ。

 教授の端末から得た情報では、バルメスに人形の生産工場があったようだ。

 その人形の中の一つ……いや、いくつでもいい。これらを復元するための様々な資材などが必要になったのかもしれん。」


「要は三公爵を出し抜いて、自分の本当の研究を進めたかったということかしら。

 ただのヒステリックな臆病者かと思っていたけど、とんでもない。

 あそこまで強大な権力者たちを手玉に取って、甘い汁を吸おうと考えていたわけよね?

 あの男を相当に見くびっていたわ……。」


「この状況を考えると、熱線砲の復元は、正に水際で妨害できたことになる。

 現在練成中の『回路』は本格的な大出力エネルギージェネレータだ。

 ミーナの斧のものに匹敵するほどのな。」


 レオンハルトの言葉を聞き、ミナトは話が解らないままきょとんとしている。


「あたしの斧がどうかしたの?」


「飽くまでも推測ではあるが、君の斧に埋め込まれている『回路』は、ツェッペンドルンの熱線砲で利用されていた『回路』である可能性が高い。

 大本は発射する熱線の元になるエネルギーを生成するための『回路』で、君が魔法を使用できているのは、その魔力の引き出しを『回路』が補佐しているからだと言える。」


「あれ……熱線砲のなんだ……。」


 ミナトの表情が、急激に落ち込む。


 きっと今まで『回路』の出どころを考えたこともなかったはずだ。

 義父である騎士が愛用していた大斧。

 その中央に埋め込まれていたというだけの『回路』が、今になって、ミナトの心の中に深い影を落としているのだろう。


 レオンハルトはそんな彼女へと、静かに声をかけた。


「力そのものに善悪はない。全ては使い手と、その使い方だ。

 人を活かすも殺すも、力の使い方ひとつだと言うのは、以前見せたと思うが?」


「そうだね……魔法なんて最たる例だ。

 さっきの(いかづち)も、火事場で人を治してたのも、同じ魔法なんだもんね……。」


 幾分か和らいだミナトの顔を見て、レオンハルトも安心した表情を見せた。


 だが、エレナは相変わらず険しい顔で何かを考えこんでいる。


「ねえ、さっき『複合型』と言っていたけど、それはどんな『回路』なの?」


「残されたレポートを見る限り、エネルギーの抽出と変換を行うものだ。

 言ってみれば、魔法を発動させる『回路』と同じものと言えるな。」


「どんな魔法が使用できるのかしら?」


「いや、魔法は使用できない。

 飽くまでも魔力から純エネルギーへの変換を行うものだから、何か仲立ちをする仕組みがなければ何もできんはずだ。」


「でも、仲立ちをする仕組みがあれば、それは十分兵器にも応用できるのよね?

 今考えたんだけど、オルセン公の殺害って、それを利用した何かに殺された可能性はどうなのかしら?」


 場が一瞬で静まり返った。


 制御卓の画面がチカチカと青い光を放っている。


「あの……いいですか?」


 コムがおずおずと言葉を発する。


「エレナ様の考えは十分にあり得ると思います。

 先の練成された『回路』の諸元を見る限り、あれは複雑な機械や機構を動作させるためのコアになるエネルギージェネレータです。

 ですから、兵器のような単純な何かではなく、もっと複雑な……その……。」


 言いよどむコムに、レオンハルトは再び短く声をかける。


「人形か?」


「はい……そういったものを稼働させるために用意した可能性は十分に高いと、僕は推測します。」


「つまり兵器を仕込んだ高性能の人形を、あの教授って奴は準備しようとしていたってことなのかな?」


 ミナトは、冷静な傭兵の表情で口を開く。


 エレナはそのミナトの言葉を受けて、さらに言葉を繋げる。


「だとしたら、とんでもない話よ。

 熱線砲の話なんか消し飛ぶぐらいに悍ましい兵器の誕生だわ。

 人間に紛れて大規模破壊を可能にする、凶悪な兵器。

 それこそ止める手立てなんてないんじゃない?」


 水を打ったような静寂が再びやってくる。


 その状況を打ち破るように、レオンハルトが口を開いた。


「コム。お前の知る限りでいい。

 人間に似たものでは、どんなタイプの人形がある?」


「はい……やはり戦闘用ですね。

 非常に頑強な作りで、力は人間よりずっと強いです。

 各種兵装も増設できますし、人間の持つ武装も利用できます。」


「どうやら見えてきたな……。」


 レオンハルトの呟きを聞き、エレナが問い質す。


「なんのこと?」


「教授の考えが、ようやく見えてきたのさ。

 だが、これは最悪のケースだ。

 やはりあの男、自分の記憶と意思を人形に移し替えたことに間違いない。」


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