魔導士
「本当にとんでもないわね。二人とも。」
残骸をまたぎながら、呆れたような声でエレナはレオンハルトとミナトに声をかけた。
「数分であの機械十数体を黙らせるなんて、人間離れもいいところだわ。」
レオンハルトはため息をついて、小さくかぶりを振った。
「またその言い方か。
防衛機構を力ずくで黙らせると、いつもそんなことを言ってくるな。」
続いてミナトも不満そうな表情で口を開く。
「でも、かかる時間は短い方がいいんでしょ?
そんな嫌味、いう事ないじゃない。」
二人の言葉にエレナが答えた。
「気に障ったら謝るわ。
でも、やはり魔法使いは恐れられて当然だと思うのよ。
あんな肉を抉る銃弾の嵐の中を潜り抜けて、金属の怪物を屠っていくなんていうような真似は、常人からすれば狂気の沙汰よ?」
「そうかもしれん。
だからこそ、魔法使いは自らを律するのさ。人間として生きていくためにな。
君の父君もそうだったろう?」
「確かにね……。」
寂しげに目を逸らすエレナを見て、ミナトがレオンハルトにそっと尋ねる。
「エレナの……お父さんって?」
「エレナ、いいか?」
レオンハルトの問いに、物も言わず小さく頷くエレナ。
それを見たレオンハルトは静かに語る。
「エレナの父親はユリウス・リーマンという偉大な魔導士だ。
俺など足元にも及ばないほどのな。」
「謙遜ね。」
エレナは苦笑いを見せながら、レオンハルトの言葉に続いた。
「父は、かつてリューガー家お抱えの魔法使いだったわ。
人格者で、優しい人だった。
けど、やはり私にとっては得体の知れない恐ろしい人だったのよ。」
ミナトがかなりの長い逡巡を見せた末に何かを言おうとしたが、それを押しとどめるような強い声でエレナが再び口を開く。
「さあ、下らない話はおしまい!
そろそろ動かないと他の機械がやってくるんじゃなくて?
そうでしょう、コム。」
「はい。現在上階から六体の警備ロボットが接近しています。
ただ、今は飽くまでも警戒モードのため移動速度はゆっくりですが、こちらに気取られたら、一気に戦闘モードなのは間違いないです。」
「下の階には警護はいないんだな?」
「いません。
現在の状況においても動体反応はゼロです。」
コムに短く質問したレオンハルトは、即座に考えをまとめる。
「とにかく下だ。
管理室を押さえれば警護の機械を眠らせることもできる。
急ぐぞ。」
その言葉を聞いた三人は小走りで目の前の階段へ向かう。
彼らの頭上では、かすかにカシャリ……カシャリ……という、金属のこすれ合うような音が響いていた、