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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十一章-遺跡
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防衛機構

 レオンハルトを先頭に、奥へと向かっていく一行。

 遺跡の中は洞窟の中とは打って変わっての明るさだ。


 ミナトはしきりに周囲を気にしている。

 自身の常識と照らし合わせて、通常ならあり得ない状況や、強い違和感を感じるこの遺跡の持つ雰囲気に落ち着かないのだろう。


 昼間のように煌々と照らし出される廊下を進んでいく中、ミナトがふと疑問の声を漏らした。


「これ、なんだろう?」


「どうしたの?」


「あ、えーと……この壁、何でできてるのかなって。」


 エレナとミナトのやり取りに、振り向くことなくレオンハルトは言った。


「正直なところ解っていない。

 だが、構造材としてはすこぶる優秀な材質だ。」


 そんな言葉にエレナが続ける。


「そうね。

 割れず、切れず、燃えず、融けず。

 とても優秀な素材。

 でも、それゆえに研究が進んでいないのよ。

 なにせ破壊してサンプルを取る事すらできないし、どんな材質なのか調べることもできない。」


 ふと、レオンハルトの脳裏に、ミナトの『回路(サーキット)』についてコムとやり取りをしたことが浮かんできた。

 彼はその時と同じようにコムへと問いかける。


「コム、この壁の材質は解るか?」


「はい。これは複合炭素結晶材です。


 こう言った壁材では、主に鉄を利用したC-Fe材を……。」


「待って待って。

 炭素ですって?

 じゃあ、これダイアモンド製ってこと?」


 コムの説明に困惑しながらも、エレナは質問を投げ返す。


「いいえ、違います。

 炭素は炭素でも、ダイアモンドのような立体構造で結晶化させず、特殊な形状へ結晶化させた物です。

 これに芯材として鉄原子の結晶を流し込んで焼結させているんですよ。

 粘りと剛性を兼ね備えているため、地震などにも強い材質です。」


「工業的な量産はできないのか?」


「可能ですが、今の技術力では、まず不可能……。」


「あーっ! もう!!」


 止まる事のない三人のやり取りに業を煮やしたミナトが、とうとう癇癪を爆発させた。


「そう言うのは学術院でやってよ!

 慌てちゃダメだけど、急がなきゃダメなんじゃないの!? ねえ!!」


「あ……ああ、すまん……。」


 ミナトの勢いに押され、レオンハルトは謝罪の言葉を口にした。

 横を見れば、エレナもコムも極まりが悪そうにそっぽを向いている。


「それよりも、だ。」


 咳ばらいを一つして、レオンハルトは改めて口を開く。


「コム。動体反応は本当にないんだな?」


「ありません。」


「じゃあ、今のところはまだ動いていないようだな。」


「何が?」


 レオンハルトの言葉に、ミナトが反応する。

 そのミナトの言葉に対し、さらにエレナが答えを返した。


「防衛機構よ。主に戦闘用の自律機械が多いわ。

 問題は、どのタイプか、ね……。」


「どうやら、そのサンプルがあるようだ。」


 先行して廊下を進んでいだレオンハルトが、曲がり角の向こうから二人に話しかけた。


 速足でレオンハルトの元に向かうミナトとエレナ。

 そこには壁にもたれかかってくずおれた死体と、その傍にしゃがみこんで死体を検めるレオンハルトがいた。

 死体は黒い鎧を着てはいたが、数多の銃創で正に蜂の巣の様相だ。


「どうなの? 何かわかって?」


 エレナは死体から目を背けてレオンハルトに尋ねた。


「どうやら防衛機構はⅠ型のようだな。

 最も対処しやすいものだから助かった。」


「じゃあ、レオン。特徴はどんなの?

 あたしでも対処できる?」


 立ち上がるレオンハルトに向け、ミナトが質問した。

 その質問に、レオンハルトは簡潔に答えていく。


「蜘蛛のような形状をした自律機械だ。

 車輪で移動するため、速度はやや速い。

 だが、作りに金をかけていないらしく、装甲らしい装甲はない。

 君の斧なら十分すぎる働きをしてくれるだろうな。

 武装は高速の徹甲弾を速射してくるが、これも『防壁』の魔法で対処できる。」


「銃弾……。

『神速』も併用したらどうかな?」


 ミナトが顎に軽く手を当ててレオンハルトに尋ねる。


「無論有効だ。

 併用できるなら対処がより……。」


「警告! 動体反応多数!!」


 レオンハルトの返答を遮るように、コムが叫ぶ。

 廊下の奥からは、何か氷の上を滑るかのような音が響いてきた。


「下がれ!」


 レオンハルトは二人に向け、大きく叫ぶ。


 全員が曲がり角の向こうへ引き返したその直後、物凄い勢いで銃弾が一直線に襲いかかってきた。


 ガガガガガガッ……と耳障りな音が廊下に鳴り響く。


 曲がり角の向こうのあの死体が、ボロクズとなって丁字路の向こうへ吹き飛んでいくのが見えた。

 目を背けるエレナの前で、レオンハルトとミナトが魔法の準備をし始める。


「使うは『防壁』と『神速』だ。

 君の使う魔法でもあの銃弾には対処できるが、過信は禁物だぞ。」


「わかってる。『白刃』は?」


「不要だ。奴らの装甲は随分と弱いからな。

 コム!」


「了解。フィールド展開後、先行します。」


「よし!」


 短い言葉のやり取りを即座に終わらせ、三人は一気に行動を開始する。


 雨あられと飛ぶ銃弾が途切れた一瞬を突き、コムが曲がり角から飛び出した。

 それに引き続き、レオンハルト、ミナトが全速力で続く。


 再び飛び交う銃弾。


 それを魔法で受け止めつつ、その拳と大斧が、それぞれ手近な一体に向けて叩きつけられる。


 不快な金属同士の衝突音が轟き渡り、まずは二体が物言わぬ鉄塊となり果てた。


 このⅠ型と呼ばれた警備ロボットは、飽くまでも遠距離での戦闘を想定された機体らしい。

 しかし、近接戦での状況で強力な徹甲弾を使用してしまえば同士討ちだ。


 そんな銃撃を躊躇するような動きを見せるマシンに対し、返す刃でさらに一体、また一体とミナトの大斧がマシンのボディを斬り裂いていく。


 レオンハルトもまた、威力を絞った『雷撃』の魔法を併用した体術で次々とマシンを沈黙させていた。


 敵性存在十二体。


 二人がこれらを沈黙させるのに要した時間は、三分二十秒。


 エレナはそんな彼らに向け、なぜか冷たい視線を投げかけていた。


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