入口
遺跡の扉は既に解錠されていた。
多くの泥のついた足跡が、入り口付近を茶色く汚している。
「かなりの人数が出入りしているわね。」
足跡を見たエレナがボソリと言った。
「じゃあ、急がないと!」
「いや、慌てる必要はない。」
慌てるミナトに、レオンハルトは冷静に答えた。
不満げな視線をミナトはレオンハルトへ向ける。
その視線と自らの目を真っ向から合わせ、レオンハルトは口を開いた。
「よく考えるんだ。
今のところ、俺たちの背後を取る連中はいない。ゆえに入り口の鍵をかけ、外部から増援が侵入しないようにできれば、遺跡の中にいる連中は孤立させられる。
連中が何を目的としていても、遺跡から脱出できない以上、どんな計画だろうと絵に描いた餅に過ぎなくなるだろう?」
「でも、数の上では不利な可能性が高いよ?」
「遺跡の狭い通路で戦えば、数の有利は不利に変わる。
背後を取られなければ、有利なのは間違いない。
増援がないことが解っていれば、なおの事だ。」
レオンハルトの言葉を聞き、不服そうな表情で考え込むミナト。
エレナは、そんな彼女に優しく語りかけた。
「急ぐ必要はある。でも慌てちゃダメよ?
さっきのあなたはその辺が危なっかしかったように見えるわ。」
「うん……。」
エレナの指摘に納得の声が漏れるミナト。
エレナは微笑んで言葉を繋げる。
「彼ったら口が悪いから、優しく言えないのが短所なのよね。
ほんと、説教臭いのは勘弁してもらいたいわ。」
ため息をつくエレナの様子を見て、ミナトもつられて苦笑いをする。
そんな二人の様子から目を背けて、レオンハルトはコムに指示を出していた。
「コム。遺跡の中の走査だ。
特に動体反応を重点的に頼む。」
「了解です。」
コムの目がチカリチカリと光る。
数秒の後、コムが作業完了の旨を告げた。
「遺跡内の動体反応は、現在の所ゼロ。
遺跡全体での局所的な温度変化もプラスマイナス三度。
生物が潜んでいる可能性は非常に低いと考えられます。」
「そうか……。」
思考を巡らすレオンハルトの脇から、エレナが口を挟んだ。
「コム、防衛装置の可能性は?」
「著しく高いと考えられます。」
「決まりじゃない? レオン。」
「そうだな。ここであれこれ考えていても仕方ない。
突入し、まずは管理室を押さえる。」
レオンハルトの力強い視線がドアに向けられ、その横にあるパネルに手が伸ばされた。
音もなく、自動で開くドアに、ミナトが仰天する。
「これ……今、勝手に……。」
「遺跡のドアは大体こんな感じ。
これで驚いていたら心臓がもたなくてよ。」
にこやかに語るエレナは、イヤリングを揺らして遺跡へと入っていく。
一方、ミナトはただ呆然とドアを見つめ、なかなか一歩が踏み出せずにいた。