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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第十一章-遺跡
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走査(スキャン)

「妙だね……。」


「ああ、妙だ。」


 先行するミナトのつぶやきにレオンハルトが答えた。


「人の気配がないわね。静かすぎるわ。」


 続くエレナの声も、強い警戒感を滲ませている。


「コム。」


 レオンハルトが静かにコムへと声をかける。

 コムはその声の意味を最大限に解釈し、周囲の状況を探った。


「周囲に魔獣や人間と思しき動体反応はありません。

 ただ、地面の何箇所かに、掘り返された痕跡が確認されます。」


「その下は走査(スキャン)できるか?」


「該当箇所で行います。」


 そう言うと、コムは宙を滑るように進む。

 茂みの影。ここではまず掘り返した跡など見つからないだろうという箇所でコムは停止した。


「走査開始します。」


 コムの目が緑に明滅し、土の下に埋められてる『何か』を探り出す。


 数秒の後、コムはその結果を全員に告げた。


「生命活動が停止した人間……遺体ですね。」


「誰の……遺体なの?」


 眉を顰めてエレナがコムに尋ねる。


「そこまでは解りません。

 ただ、武装はしています。鎧と剣が確認できていますから。」


 レオンハルトはしばし目を閉じて考える。


 やがて考えがまとまったのか、コムに対して命令した。


「コム。ほかの箇所に埋められている遺体も走査しろ。

 できるか?」


「任せてください!」


 張り切った声でそう答えると、コムは上空に向けて上昇を開始する。

 ある程度登り切ったところで停止し、走査を開始した。


 三人はその様子を地上から眺めている。


「ねぇ、コムってあんな命令を実行できるの?」


 心配そうな声でミナトがレオンハルトに尋ねる。

 レオンハルトは涼しい顔で答えた。


「大丈夫だ。何の問題もない。

 あいつの探査能力はかなり広範囲をカバーしてくれる。

 言っただろう? 仕事では、かなり有能な相棒だと。」


 ややあって、コムが下降してきた。

 下降しきる前から、やはりここでも張り切った声で結果を返す。


「走査終了です。

 遺体の数は十二。

 全員同じ鎧と剣を装備していますね。」


 コムの報告に、レオンハルトが不可解そうな表情で尋ねる。


「剣はどうなっていた?」


「鞘に納められていたのは八振り、残りはこの近辺での反応がありません。」


 顎に手を当てて考えるレオンハルト。

 そこにミナトがコムへと質問を投げかけた。


「ねぇ、コム。

 傷痕はどこかわかる?」


「それはほとんどが背中側です。

 間違いありません。」


 それを聞いたミナトが静かに口を開いた。


「大体読めてきたかも……。」


「本当? じゃあ、ミーナの名推理、お聞かせ願えるかしら?」


 ミナトは微笑んで語るエレナの言葉に少しむっとした表情を見せたが、気を取り直した様子で語り始める。


「多分、埋められている連中は、三公爵側の兵だ。

 ここへ何者かが襲撃してきて、迎撃するより逃走したんだろう。

 背中から斬られたということと、剣を抜いていない事からそう推測できる。」


「成程な。こちらの考えとほぼ合致する。

 コム。遺体の鎧、剣、鞘、いずれかに紋章はあったか?」


「ありました。投影しますね。」


 コムがそう言うと、空間に鞘の立体映像が映し出された。

 確かに鞘の根元には、オルセン公爵家の紋章が彫り込まれていた。


「総合するとこういうことかしら。

 ここにいたのはオルセン公の私兵一個小隊。

 そこに何者か、もしくは何者たちかが襲撃を仕掛け、逃げる兵を皆殺しにした。

 どう? 間違ってて?」


 得意げに語るエレナの問いに、まだ何か引っかかったかのような顔でレオンハルトが口を開いた。


「概ねはそれでいいだろう。

 だが、二つほど謎がある。」


「謎……相手の正体と目的か……。」


 レオンハルトの言葉を聞いたミナトがつぶやく。

 レオンハルトは、その言葉に相槌を打った。


「その通りだ。その二点が解らない。

 襲撃した連中はここをどうしたかったんだ?

 遺跡を奪い取るのが目的だったにしても、逃げ出した連中を後ろから斬ってまで皆殺しにする必要はないだろう。

 それでいて、見張りや護衛を置いている訳でもない。

 まるで、ここを襲撃すること自体が目的だったように思える。」


 エレナも唇に人差し指を当て、考え込んだ。


「連中の正体に至っては見当も付かないわ。

 オルセン公……いえ、三公爵を敵視する勢力はごまんといる……。

 でも、その中にこんな実力行使をする連中なんているかしら?」


 エレナの言葉に一同が声を失う。


 確かにそうなのだ。


 三公爵の政敵は多い。

 だが、直接的な実力行使を行える勢力はどこにも存在しない。

 殺害されたとはいえ、オルセン公は間違いなく強大な権力を持つ大貴族だ。


「まるで地ならしをしてくれた雰囲気だな……。」


 レオンハルトがポツリと言った。


「あたしたちが来たときに手間を取らせないように、ってこと?」


 真顔でレオンハルトに尋ねるミナト。

 レオンハルトは、そんな彼女に短く答えた。


「案外そうかもしれんぞ。」


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