岸辺
「すまないな、船頭さん。」
レオンハルトは、漁師の男に言った。
「いや、あんだけ礼金を積まれちゃ、断るのも損だからな。
でもいいのかい? 行きだけ案内ってのは。
なんだったら帰りも乗せてってやるぜ?」
「帰りは何とかできるからな。
気持ちだけもらっとくよ。」
微笑みながらレオンハルトは漁師に答える。
どうやらクロウフの遺跡はミスヌ河の中流域にあり、舟でなければなかなか上陸もできないところにあるらしい。
ここ数年になって多くの傭兵や山師連中がにぎやかにやっていたのをたどった結果、ようやく場所を特定できた。
あとは現地に向かい、遺跡を何とか接収しなければならない。
「この辺りだな。
ここらでよく荷を下ろしてやってたぜ。」
船頭が指さす辺りを見れば、確かに開けた場所があった。
だが、自然にできたような空間には見えない。
明確な、人為的に手を加えられた空間だ。
「よし。ミーナ、先行してくれ。」
「了解。」
短く答えるミナトの顔は、百戦錬磨の兵の顔だ。
目つきも鋭く、周囲の様子を警戒しつつ、舟から上陸した。
安全が確認されたところで、エレナ、レオンハルトと続く。
「じゃあ、船頭さん。
気を付けてな。」
「そっちこそな、先生。」
舟が十分離れていった頃合いを見計らって、レオンハルトはコムに呼びかけた。
「もういいぞ、」
何もない中空から、スウっと薄衣を脱ぐようにコムが姿を現した。
続いて不服そうな声でレオンハルトに声をかける。
「なんだか割に合いませんよ。
何もせず、ずっと黙ってるのは。」
「仕方ないだろう。
お前みたいなのが俺の後ろについていたら噂になってしょうがない。」
そんな二人のやり取りに、エレナが宥めるように割り込んできた。
「まあまあ、お坊ちゃん。
また後でゆっくりおしゃべりしましょう。
今はまず……。」
「ああ。遺跡だ。」
それだけ言うと、レオンハルトは森の奥を睨む。
その先にはきっと何らかの危険が待っているはずだ。




