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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第九章-過去
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英雄

「時計塔の件はどうする?」


 エレナの言葉を聞き、考えを中断させたミナトが答える。


「お願い。これはヒュウガも絡むんでしょ?」


「ええ。事件そのものは単純明快よ。

 テロによって帝都中央の時計塔が爆破されそうになったの。

 それをレオンとヒュウガの二人で、テロ集団を叩きのめした。

 ただ、最後の最後、無事だったテロリストの一人がレオンを狙って銃撃。

 それをヒュウガが庇って時計塔から転落したの。

 その後、彼は生死不明で、レオンはかなり長くこの件を引きずっていたわ。」


「さっき捕まったって言ってたけど?」


「要は二人とも捜査権もないし、本来戦闘行為も許されていないでしょう?

 それがあって一時収監されたの。

 まあ結果として、何があったかを知った参謀本部が、特例措置で司法に免罪を要請したのよ。

 それがあって、今では一部の人間から『時計塔の英雄』と呼ばれているわけ。」


「そうか……ヒュウガもそういうことがあったんだ……。」


「あなた、彼と行動してたわよね。

 このことについて教えてもらえるかしら。」


 真剣な眼差しのエレナに、ミナトもまた真剣な目で答えた。


「ごめん、守秘義務がある。

 ただ、ヒュウガはレオンの事を今でも親友だって思ってるよ。

 これだけは言える。」


「そう……。」


 目を閉じてうつむくエレナ。


 ミナトは後ろに手をついて天井を仰ぐ。


「テロ……か。」


 怒りとも哀しみとも取れるような無表情さで、ミナトはつぶやいた。

 エレナはその声に続けて話をする。


「この間もあったでしょう?

 私とあなたが初めて会ったあの件。」


「うん……帝都ではテロって多いの?」


「多いわね。反体制のテロがかなり幅を利かせているわ。

 さっきの話に絡んでくるけど、ひょっとしたら三公爵がバックにいるかもしれないわよ?」


「まさか!?」


 身を乗り出しかけるミナトを制しつつ、エレナは言葉を続けた。


「飽くまで可能性よ。

 本当にそうだとしたら、逆に彼らの方が危ないわ。

 粛清の良い口実ができたら、今にも陛下はやりかねない状況でしょう?」


「それもそうか……。」


 大人しくベッドに再度腰掛けるミナトにエレナは言った。


「お互い決め手に欠けている状況なのよ。

 綱渡りのど真ん中。

 もし何か均衡が崩れれば、大きく状況が変わるわ。

 どちらにしてもマウルとの戦争は待ったなしだけどね。」


「ふぅ……。」


 ため息をついて、ベッドに倒れこむミナト。


「そうなる前に入隊しておきたいなぁ……。

 傭兵のままじゃ不安定だし……。」


 膝の上に頬杖をついて、エレナはミナトを見る。


「ふぅん……結構リアリストね。

 愛しの彼に尽くすつもりはないのかしら?」


 エレナはニヤニヤ笑いでミナトに尋ねる。


 ミナトはガバリと起き上がって、エレナを睨んだ。

 その顔は真っ赤だ。


「そりゃやる気はあるよ!

 でも……でもさ、それとこれとは話が別だよ。

 軍人になっても彼に尽くすのはできるじゃないか!」


 そんな様子を見たエレナは微笑んでミナトに詫びた。


「ごめんなさい。つい意地悪言っちゃって。

 でもね、彼に尽くすのはいいけど、同情だけで近づくのはおよしなさいな。」


 冷たい視線、冷徹な表情。エレナの最後の言葉はそんな一言だった。

 そんな彼女に、やや敵意を持った視線をミナトは送る。


「どういうこと?」


「同情ってね、時に人を傷つけるのよ。

 憐れみを感じたからと言って、何の手立てもなくただ応援するだけなんて、相手を馬鹿にしてるわ。

 それなら間違いがあったとしても、何かしてあげる方がましでしょう?

 応援するだけで苦しんでいる人間を救えると思ったら大間違いよ。」


「わかってるよ、そんなこと!!」


 辛辣なエレナの言いざまに、つい言葉を荒げるミナト。


「あたしにはできることとできないことがある。

 そんなことはわかってる。

 だからできることをしたい。

 できる範囲でしかできないけど、彼を助けたい。

 それだけはわかってるんだ!」


 うっすらと涙を浮かべて、ミナトは強い言葉で言い放つ。

 エレナはその彼女の様子を見て、そっと微笑み、こう言った。


「ならいいわ。

 何かしようとするなら、まだ安心できる。」


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