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雑踏
日の傾く雑踏の中、レオンハルトは一人歩いていた。
表情は暗く、思いつめた顔だ。
(レオン様)
チャンネル二番に音なき声が響いた。
(なんだ? コム。)
(はい。お二人は『白鹿亭』に宿を取ってます。
いい宿ですよ? 合流しませんか?)
コムの浮かれた声に向け、レオンハルトは不愛想に答える。
(まだしばらくぶらつく。
二人との合流は最低でも二時間は見ておけ。)
(今、相当機嫌悪そうですね……。)
(ああ。最悪だ。
貴族連中の不調法は今に始まったことじゃないが……。
それでも、今回は特に腹に据えかねる。)
レオンハルトの感情パラメータがコムにも伝わったらしい。
コムからの送信が一旦途絶えた。
(何もなければ切るぞ。
先にも言ったように二時間は合流せんからな。)
(わかりました。
でもヤケは起こさないで下さいよ?)
(下らないことを言うな。)
レオンハルトはただそれだけ言うと、コムとの回線を一方的に切断した。
雑踏の人々が傾く夕日を受け、徐々に赤く染まっていく。
夜も近い街の中に、彼はひとり溶け込んでいった。