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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第九章-過去
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「君の母君は優しい人だったな……。」


 そう言うと、レオンハルトのグラスに伯爵はブランデーを注ぐ。


 波打つ液面を見るレオンハルトの顔は、もう不機嫌さを隠そうともしていない。

 憎しみすら見え隠れする、そんな表情でレオンハルトは口を開いた。


「有体に申し上げて……母の事は他人に触れられたくない想い出なのです。

 例え伯爵閣下でも、それ以上踏み込まれるならこの場で帰らせていただきたい。」


 そんな敵意すら感じられる言葉に、伯爵は哀しそうな表情を見せつつ、謝罪の言葉を口にした。


「すまない。

 ただ、あの女性(ひと)は私にとっても大切な方だった。

 故にどうしても気になってな……。」


「何を今さら!!」


 怒りの形相で勢いよく立ち上がるレオンハルト。


「結局貴方もあの男と同じだ!!

 口先だけ、大切だ、気になっていた、と言うだけで、本当に苦しかった時には何も手を差し伸べない!!

 自分がどれだけの苦しみを味わおうと構いはしない……だが! だが、母はどうなる!?

 医者にもかかることができず、治るはずの病で逝った、そんな母の苦しみが貴方に解るのか!?」


 血を吐くようなレオンハルトの声音に、伯爵は瞳を閉じる。


 だが、次の瞬間、伯爵は雷に打たれたかのような勢いで立ち上がり、レオンハルトに強い口調で尋ね返した。


「待て! 今、あの男と同じだと言ったな!?

 あの男とはギルの事か!?

 彼は生きているのか!?」


「これ以上語るつもりはない!

 失敬!!」


 それだけ言うと、レオンハルトは個室のドアを叩き破るように開け、大股でクラブのフロアを出口に向かい突き進んでいった。


 客の多くは、そんな学術師の無作法に眉を顰め、田舎者と軽蔑したりもしたが、その一方で、取り残された伯爵は再びソファに沈み込み、目の前のブランデーをあおっていた。


「ギル……生きているなら、なぜ教えてくれんのだ……。」


 伯爵はそうポツリとつぶやくと、手酌でもう一杯酒を注ぐ。


 その液体の深い琥珀色は、記憶にある親友の瞳と、そして今まで言葉を交わしていた青年の瞳と同じ色のように、伯爵の目には映った。


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