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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第一章-レオンハルト・フォーゲル
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 夕暮れの酒場で、レオンハルトとエレナは杯を傾けていた。

 レオンハルトはエールを、エレナはウィスキーを口にする。


「しかし参ったわね。

 教授って昔はあんな人じゃなかったはずでしょう?」


 カウンターのランプに、エレナのイヤリングが輝く。

 深い蒼の輝きが、ブロンドの髪の合間合間から漏れ、煌めいている。


「ああ。もっと思慮と分別のある人だった。」


 レオンハルトは気の抜けたエールを舐めるように飲む。

 エレナはグラスの縁を指でなぞりながら言った。


「大体二年前ぐらいかしら。

 その辺りからおかしくなってきたわね。」


「二年前か……。」


 忘れもしない。

 レオンハルトの身に大きな事件があった時。

 彼は一度死に……そして……。


「あの行方不明になった時、何があったの?

 全く話をしてくれないけど、不都合があって?」


「大いに不都合だな。」


 そう言うと、レオンハルトはエールを一気に飲み干した。


 二年前のある日、レオンハルトは教授の密命を受け、遺跡があるという洞窟へと足を向けた。

 その後、数ヶ月行方をくらました後、帰還を果たしたのだ。


 だが、その数ヶ月の期間に何があったのか、それは報告もされていない。

 元々が密命であったがため、報告の義務はないと教授から厳に言い含められたことを盾に、レオンハルト自身語ることもしていない。


 その期間の内容を秘する理由は十分にある。

 少なくともレオンハルトが、人として生きていくためには……。


「それはそうと、レオン。

 襲撃者の正体は解ってるんでしょう?」


 エレナの指は、いつしかグラスの縁の一点で止まっていた。


 流し目でレオンの顔を見つめるエレナ。


 レオンハルトは空になったコップを見つめ、ポツリと言った。


「ああ……。

 ヒュウガだ……ヒュウガ・アマギ。」


「嘘でしょう!?

 彼はあなたをかばって死んだはず……。」


 エレナの顔に驚愕の表情が張り付いた。


 レオンハルトは淡々と答える。


「時計塔のあの事件……。

 俺たちはテロリストを片付け、爆破を防いだ。

 その直後、あいつは俺に向けられた魔導銃の一撃を胸に受け、堀に落ちたんだ。

 普通なら死んでいる。だが、生きている可能性はない訳じゃなかった。」


「でも、胸よ? 心臓よ!?

 そこに銃弾を受けて生きているはずはないでしょう!?」


「言ったはずだ。可能性はない訳じゃない、と。

 もし何者かが心臓の代わりになる『何か』を与えたとしたら、どうだ?」


「人工心臓……。

 確かに遺跡から発掘されたことはあるけど、サンプルはかなり少ないわよ?」


「遺跡発掘は学術師だけのお家芸という訳じゃない。

 市井の学者や山師ですら発掘を行うんだ。

 そういった『善意の何者か』が彼を救った事だって考えられる。」


「そうね……。

 でも、昨日の一件、それだけじゃないんじゃない?

 いっそ全部吐き出しちゃうと楽になるわよ?」


 エレナははっきりとレオンハルトに向き直り、話しかける。


 レオンハルトはゆっくりエレナに顔を向けた。

 エレナの真剣な眼差しが彼の目を射抜く。


「君には敵わないな……。」


 顔を背けて、瞳を閉じ、レオンハルトもウィスキーを注文した。


「仇だと、そう呼ばれた……。」


 差し出されたウィスキーを一口飲んで、レオンハルトは語る。


「仇? 何の話?」


 エレナは訝しげに問い返す。


「十年前の話だ。あの事故について、仇だと言われた。」


 そう語ると、再びウィスキーを飲む。


 酔いがなかなか回らんな。レオンハルトはふと思った。


「あの件は完全に事故だったんでしょう?

 それを恨むなんて……。」


「いや、恨まれても仕方ない話だ。

 俺たちの内、あの事故から生き残ったのは俺と教授のみ。

 俺が仇と狙われるなら、それで復讐を打ち切らせたい。」


「自己犠牲で教授を守ろうという腹かしら。

 そこまでして守る価値、あの人にあって?」


「教授の復元技術と理論構築は本物だ。

 それが失われることは、帝国にとっても大きな損失になる。」


「帝国にとって、ね……。」


 頬杖をついてボソリと言うエレナ。


 レオンハルトは飲み干したグラスを差し出して、もう一杯を注文している。


「でも、やりきれなくない?

 そんな助けたはずの()に命狙われるなんて。」


「話したか? 少女を助けたことは。」


「ええ。

 ツェッペンドルンの生き残りなんて、その娘ぐらいじゃなかったかしら?」


「他にも何人かいる事はいるがな。

 だが、誰に対しても、俺には合わせる顔がない……。」


「十年前……あの時、あなた十四歳よね。

 責任なんて取れた年でもないでしょう?

 辛いのは解るけど、そろそろ忘れられない?」


「無理だな……。

 多分これは一生ついて回るだろう。」


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