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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第九章-過去
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関所

 カッツバルの関所。


 帝都とクロウフの中間ほどに存在する、やや大きい関所。

 大きいのには理由があり、ここを越えると皇帝直轄地から第二大公領――すなわちディアナ・カーライルの領地となるからだ。


 ただ、この地を実質的に統治しているのは、ディアナ・カーライルの懐刀と言われる切れ者、エーデルハイド・フリードリッヒ伯爵である。


 フリードリッヒ家は第二大公家との関わりが深く、当代の伯爵も幼いころからディアナ、ギルベルトと共に学び、共に遊んでいたという。


「関所のたびに段取りを取るのは面倒ね……。」


 うんざりした顔でエレナがつぶやいた。


「仕方ない。

 もし関所を飛び越えれば、魔法の悪用と見なされ重い罪に問われてしまう。

 こちらにその気はなくとも、だ。

 魔法使いは何でもできると恐れられているからな。

 隙を作って攻撃の口実を与えてしまっては、今後の活動に差し障りが出る。」


「こんなこと言うと怒られるだろうけど……取り締まりの連中を蹴散らしちゃうこともできるんでしょ?」


「まあな。」


 少々不機嫌そうな表情で、レオンハルトは言葉を続ける。


「ただ、魔法を封じるための魔導器というものは存在する。

 確か近衛兵師団にいくつか配備されていたはずだ。

 携帯できるサイズだし、誰でも使える。

 これを持ち出されたら、そこらの魔法使いなど手足をもがれたも同然になる。」


「そうね。以前それであなたも捕らえられたわね。」


 どことなく冷徹な雰囲気を醸し出してエレナがレオンハルトに語りかけた。


「以前?」


 振り向いてレオンハルトの顔を見るミナト。

 レオンハルトは不機嫌な表情のまま、口を開いた。


「時計塔の一件だ。

 正義の味方を気取ったはいいが、やはり不法行為に変わりはなかった。

 あの時、抵抗するつもりはなかったが、念のために魔法を封じられたのさ。

 そもそも魔法の種も尽きていたから、抵抗などできなかったがな。」


 哀しみ、不安、恐れ……複雑な表情でミナトはレオンハルトの顔を見る。


 彼の過去はどんなものなのだろう。

 ミランダ婆さんが言ったように、彼がいつも陥っているのは、どれぐらい深い苦しみなのだろう。


 いつしかミナトはうつむき、泣きそうな顔になっていた。


「ミナトさん?」


 サラリ……と金属の触れ合う音がミナトの耳に届く。

 エレナがイヤリングを煌めかせ、彼女の肩を抱くように手を回し、声をかけてきた。


「ごめんなさい……少しイヤな事考えちゃった……。」


「仕方なくてよ。レオンの事が気になるんでしょう?

 どこか彼のいないところで色々教えてあげるわ。

 私が知る限りではあるけど、少なからずあなたの不安を和らげるてくれるはずよ。」


 先を行くレオンハルトを二人が慌てて追っていく。


 昼前の街道は人でごった返している。

 徒歩の者、馬車の者、馬に乗る警備兵などあらゆるものが道を行き交っている。


 レオンハルトが進んでいく途中、コムが遮蔽フィールドの中から耳元で囁いた。


「あの……お二人と随分離れてますよ?」


 その声を聞いたレオンハルトは後ろを振り返った。

 見れば、二人が交差点を渡り損ねている。


 苛立ちを抑えながら二人がくるのを待っていると、レオンハルトの眼前に立派な馬車が横付けされた。


 馬車の扉にはフリードリッヒ伯爵家の紋章。

 御者の開ける扉から出てきたのは、口ひげを蓄えた美髯と長身の紳士。


 それこそは、エーデルハイド・フリードリッヒ伯爵その人だった。


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