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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第九章-過去
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『転移』

「さて、今後の予定だが……。」


 給仕が皿を下げるのを待って、レオンハルトが切り出した。


「まず今日中に目的の宿場まで向かうことにする。」


「目的の宿場って、どこになるの?」


 言葉を切ったレオンハルトにミナトが尋ねる。

 彼が答えようとしたところに、エレナが割り込んだ。


「クロウフよ。ここから徒歩で三日ほどかしら。」


「三日って……やっぱり無茶なんじゃない?」


 エレナの答えを受けて、不安を口にするミナト。

 そんな彼女に、レオンハルトは優しい声で答えてきた。


「先の三回で大体の感覚は掴んだ。ここからはもう少し距離を延ばせる。

 道中特に疲労する要素がなければ……そうだな、一時間ほどあれば、宿場を五つ跳びで進むことができるはずだ。」


 瞳を閉じて、ミナトは頭の中で計算する。


 目的地のクロウフまでは徒歩で三日、およそ百ロークラム程度の道のり。

 宿場町は大体十ロークラム程の間隔で存在している。

 そうなるとクロウフまでは十から十一の宿場があるはず。

 そこを一時間ごとに五ずつ飛んでいくとしたら……。


「二時間ほどで到着って!!」


 ミナトは素っ頓狂な声を上げた。


 ちょうど朝食時で、宿屋の食堂は人でいっぱいだ。

 一瞬ざわめきが止まり、皆の目がミナトを中心に、一風変わった風体の一行へと向けられる。


「ご、ごめん、つい興奮して……。」


 首をすくめ縮こまるミナトを、エレナは苦笑いで見つめている。

 周りをチラリと確認しつつも、レオンハルトはいつもの冷静な声で言った。


「外を歩いている時には構わんが、こういう所では遠慮してくれ。

 まあ、君の計算通りだ。クロウフまでは二時間もあれば到着できる。

 ただ、できれば道中少し休みたいから、やはり半日はかかると考えた方がいい。」


「これなら時間的に十分な余裕ができるわね。

 一箇所当たりの調査期間は一週間取っても平気じゃなくて?」


 微笑むエレナに向け、レオンハルトが答えた。


「いや、調査期間は最大で三日とする。

 コムの探査能力をもってすれば、それだけの期間に十分な情報を記録することができるはずだ。

 それに宿場から遺跡までの距離がある。

 その移動には恐らく『転移』は使えない。」


「どうして?」


 レオンハルトの言葉に対し、ミナトが自然な調子で尋ねてきた。


「『転移』の魔法は、十分な空間に向けて行う必要がある。

 言ってみれば開けた場所に向けて使わねばならんのさ。

 行先の様子は魔法の発動時に確認できるが、そこで十分な空間が確保できない場合、魔法の発動を止める必要が出てくる。」


「もしそれを強行したらどうなるの?」


「例えば岩を考えよう。

 岩のような大きな密度を持つ物体の中に、人体のような脆弱な物体が押しのけて入ろうとしたらどうなる?」


「う……。」


 レオンハルトのたとえ話を、ミナトは真剣に考えてみたようだ。

 どことなく脂汗が浮かび、顔も青褪めている。


「そういうことよ。

 空気は密度がとても低いから押しのけて出現できるけど、固体や液体の場合は上手くいかないこともある。

 だから安全のためにそう言う無茶はしないことになってるの。

 そうよね、レオン?」


「まあな。」


 説明を横取りされて少しばかり不機嫌そうなレオンハルトではあったが、すぐに気を取り直したのか、中断されていた本来の説明を再開する。


「今回の調査……いや、遺跡の接収は時間との勝負だ。

 一つ遺跡を落とした後に次の遺跡へ移動する時間は、少しでも短くしなければならん。

 落とされたという事実が伝えられれば、守りを固められる。

 そうなった場合余計な時間がかかり、移動で稼いだ分が無駄になりかねん。」


「確かにそうね……。」


 エレナはそれだけ言うと、給仕に手を上げ、コーヒーを三つ注文した。


「すまんが、俺はブラックでいい。」


 給仕にレオンハルトはそう告げる。


「相変わらずのブラック派なのね。」


「香りを楽しむなら、これが一番だ。」


 何事もないかのように言うレオンハルトを、ミナトは哀しそうな目で見つめている。


 それに気づいたエレナが、ミナトに尋ねた。


「どうしたの?」


「ん……なんでもない。」


 ミナトは目を伏せて、それ以上何も言おうとはしなかった。

 あのことは秘密にするべきだ、と、何となくだがそう思ったからだ。


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