宿場町
『転移』による移動を数回繰り返し、レオンハルトたちは帝都から最も近い宿場町まで到着した。
所要時間は十分強。本来ならば徒歩で二、三時間はかかる行程だ。
「さすがに速いわね……。
でも、ここまで一気に跳べるなんて思ってなかったわ。」
エレナは感心したように周囲を見回す。
まだ夜が明けきらぬほどの時間だ。
人影もまばらで、いきなり現れたレオンハルトたちに気付く人間もいない。
「レオン、大丈夫?」
指でこめかみを押さえるレオンハルトに、心配そうな声をかけるミナト。
レオンハルトは軽くかぶりを振ると、普通の声音で答えた。
「ああ。まだ問題ない。
できれば少し食事をしておこう。
次の宿場町までは結構な距離があるからな。」
そんな彼に、エレナが口を開いた。
「場合によっては、少し無理してもらう必要があるかもね。」
「ちょっと、エレナさん!」
顔を曇らせて抗議するミナト。
そんな彼女を意に介さず、エレナは言葉を続ける。
「まず、ここで食事。そして問題はここから。
少し無理して次の宿場町。
そこで一回仮眠してもらって、次へ向かう。
これを繰り返すのが一番効率がいいと考えるんだけど、どうかしら?」
エレナは真剣な眼差しでレオンハルトの顔を見る。
レオンハルトは少し考えた風を見せ、エレナに向き直った。
「そうだな。それがいい。
ただし、目的地近くの宿場では一泊する必要があるだろう。
最大のパフォーマンスを発揮するには、十分な休息が必須だ。」
横ではミナトが心配そうな目つきでレオンハルトの顔を見つめている。
「本当に大丈夫なの?
以前無理に『治癒』を使って大変なことになったじゃない……。」
「今回はあんな無茶はしないさ。」
レオンハルトは軽く微笑んで、ミナトに答えた。
近くにある宿屋から、シチューの匂いが漂っている。
「あそこがいいだろう。」
レオンハルトはそれだけ言うと、ふらりと宿屋へ向かっていった。
そんな彼の背中を、ミナトは訝しむように見つめる。
不意にミナトの肩が叩かれた。
「解るわよ、それ。
彼の『無茶しない』は信用ならないから。」
振り向くとエレナが冷たい視線をレオンハルトに送っていた。
先を行くレオンハルトの背中を改めて見つめるミナト。
コムはそんな様子を遮蔽フィールドの内から黙って見ている。
何かを考えている、そんな雰囲気で。