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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第八章-出立
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出立

 出発の日。


 明け方の広場に、レオンハルトとミナト、それにコムは向かっていく。


「久しぶりの外出です! ウキウキしますね!」


 浮かれた声でコムが陽気に喋る。

 そんな彼を、レオンハルトは静かな声で窘めた。


「遊びに行くんじゃないんだ。

 今回の件は相当に厄介な案件なんだぞ。

 気を引き締めてもらわんと困る。」


「まあまあ。」


 二人の間を取り持つように、ミナトが口を挟んできた。


「いきなりそんな調子だと、逆にまずいと思うよ?

 緊張感は大事だけど、いつも張り詰めてたら、いつ『プツン』と行くかわからないし、それも気をつけなきゃ。」


 明るく話すミナトにレオンハルトは少し顔を向けたが、それ以上は何も言わず、黙々と広場へと向かう。

 広場には既にエレナが待っており、そこそこに大きな背嚢を足元に置いていた。


「遅いじゃない。女性を待たせるのは最低よ?」


 冗談交じりの微笑みでレオンハルトに語りかけるエレナ。

 それに噛み付くように、ミナトが声を上げる。


「お生憎! 女の子は準備に時間がかかるんだからね!」


 いきなりの援護射撃にたじろぐエレナ。

 彼女はレオンハルトに助けを求めるような視線を送った。


「悪いがエレナ。俺たちが今到着したのは予定時間の十分前だ。

 むしろ君の方こそ、早すぎたんじゃないか?」


「相変わらず正論ね。

 それはそれとして、彼女に一言言っておいてくれない?

 何に機嫌を悪くしているのか、私にはまるで見当がつかないのよ。」


 エレナは呆れた声でレオンハルトに言葉を向ける。

 レオンハルトは眉根を寄せて考えるも、こちらもまるで見当がつかない顔をしている。


「あの……レオン様?」


 コムがスイッと宙を滑ってレオンハルトの横にやってきた。

 コムはそのまま声を潜めて耳元で何かをボソボソ囁いていたが、それを聞いたレオンハルトはますます困惑した表情を見せていく。


 一通り話が終わったところでレオンハルトは少し考えこんでいたが、ややあって静かに口を開いた。


「すまんがミーナ……。

 ひょっとして俺とエレナの仲を疑っているのか?」


「ちょっ……ストレートすぎますよ、レオン様!」


 コムは大慌ての体でレオンハルトの前に滑り込む。


 エレナはその言葉にきょとんとしていたが、すぐに大声で笑い始めた。


「そういうこと!? なるほど、そういうことなんだ!

 ああ、ごめんなさい……大笑いしちゃって……。

 でもね、大丈夫よ、ミナトさん。

 私たちは仕事上のパートナーで、それ以上の関係は一切なし!

 確かに先輩としての知識や経験を尊敬はしてるけど、恋愛対象には少々ご遠慮願いたいって考えてるから。」


 今度はミナトがきょとんとする番だった。


 エレナは眦の涙を拭って、まだ笑いの余韻を残している。

 レオンハルトは苦笑いをしながらミナトに語りかけた。


「どうやら図星だったようだな。

 彼女の言う通り、俺とエレナは仕事上でしか関係はない。

 友人というにも少々関係が薄い感じがあるな。

 以前にも言った通り、俺は他人と深く繋がるつもりはない。

 恋人なんかとは全く縁も所縁もないから、その点は安心してくれ。」


 エレナはレオンハルトの言葉に、小さく一つため息をついた。

 ミナトはそんなエレナの顔をまじまじと見つめて、急に大きく頭を下げた。


「ごめんなさい!

 変な邪推で勝手に八つ当たりして……。」


「いいのよ。

 こっちもいらない当てこすりしちゃったところもあるし。

 でも、ずいぶん素直に謝るのね。逆に驚いたわ。」


 微笑むエレナに、ミナトは答える。


「これから仕事に行く以上、チームワークは大事だし。

 特に今回は、変なところでしこりがあったら危ない仕事でしょ?

 改めるべきは改める。軌道修正は早い方がいいから。」


「なるほどね……。」


 エレナは微笑んだまま少し瞳を伏せ、続いてレオンハルトの側へと顔を上げる。


「確かにあなたの言う通り、信頼できそうな人ね。

 件の問題も乗り越えてるみたいだし、これなら私も安心できるわ。」


 そんなエレナの声を聞き、レオンハルトは冷静な表情で口を開いた。


「問題が一つ片付いたのは何よりだ。

 正直これが延々続いていたら、俺の胃に穴が開きかねなかったからな。」


 少しの間……。


 その直後、ミナトとエレナは二人して大声で笑い始めた。


「何がおかしいんだ?」


「だって、レオンってば!」


「そんな冗談をあなたが言うなんて考えてもみなかったわ!」


 困惑して瞳を横に向けるレオンハルトに、コムがこっそり耳打ちする。


「女性ってのは、わからないものですよ?」


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