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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第八章-出立
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疑念

 エレナの研究室に場を移し、レオンハルトとエレナは論を戦わせていた。


「あのレポート、相当高度な人形の研究内容だったわね。」


「ああ。今回捜索するべき遺跡に含まれると判断するが?」


「待って。そうなると期限はどうなるの?

 半年で全て終わらせるって言ったのはあなた自身よ?

 遺跡が一つ増えるかどうかで、効率が大きく変わるのはあなただって十分知っているでしょう?」


「『転移』の回数を増やせば、移動距離の問題は解決する。

 そうすれば遺跡の調査時間も大きく取れるだろう?」


「また始まった!」


 レオンハルトの言葉を聞いたエレナは、爆発した不機嫌を口にする。


「いつもいつもそうじゃない!

 なんでも二言目には『自分が何とかする』みたいなことばかり!

 確かに今回の件は急ぐ必要はあるけど、なぜあなたが無理するの!?

 必要なのは三つの遺跡の予備調査!

 それ以外のものは別の人員を回してもらって調査すればいいのよ!

 あなたが全てひっかぶる必要なんて、どこにもないでしょう!?」


 大声ではないものの、エレナはかなり強い口調でレオンハルトをなじる。


「君はそう言うがな……。」


 レオンハルトは、エレナが落ち浮いた頃合いを見計らって口を開いた。


「俺は教授の最期が気になって仕方がないんだ。

『自分は死ぬ』と明言し、『君の拳の届かないところへ行く』とも言い切った。

 ひょっとしたら……ひょっとしたら、だ。

 教授は自分の意識を、人形へ移し替えたんじゃないかとも思い始めている。」


 真剣なレオンハルトの眼差しの奥には、何か恐れに近い色が見え隠れしている。

 そんな彼の顔を、不可解な怪物を見るような目でエレナは見つめた。


「前例……ないわよ? そんな不気味な話……。」


「ああ。公式の記録に残っているなら、俺の記憶にも残っている。

 だが、あの時の教授は、死ぬことを本気で恐れていなかった。

 光線が乱れ飛び、次々と人が撃ち殺される部屋の中で高笑いしていたからな。

 あの男の胆力からは想像もできない真似だった。」


 言葉を一旦区切り、ひと息深く呼吸すると、レオンハルトは再び口を開く。


「だからこそ調べておきたい。

 もし俺の予想が当たっていたら、それこそ、話は熱線砲の脅威どころではなくなるかもしれん。

 場合によっては、三つの遺跡に関するレポートは君に任せ、その遺跡は自分のみででも行く必要があるとも考えている。

 解ってほしい。

 この件、今までのような『他人に無理を押し付けられる』話じゃない。

 俺が『俺が無理をしたい』案件なんだ。

 あってはならないことが起こっていたなら、それは何とかしなければならない。

 俺は学術師として、遺跡技術の悪用だけは見逃せない。」


 強い決意に燃える琥珀色の瞳がエレナの顔を見つめた。

 先ほどの恐れの色は消え、今はもう、いつもの頑固者の目に変わっている。

 それを確認したエレナは、大きくため息をついて、レオンハルトに言った。


「解ったわ。そこまでの決意なら、もうこちらが言うことはなくてよ。

 その遺跡も調査対象に加える。それで良くて?」


「すまんな。」


「謝るぐらいなら突っ張らないで。

 ただ『転移』の魔法の件、本当に大丈夫?

 今回、存在量値が結構大きくなるわよ?」


「そうだな。単身での使用に比べ、必要な魔力量は四倍から五倍になるだろう。」


「三回も使ったらヘトヘトでしょう?

 そんな時、野盗なんかに襲われたら……ああ、そうか。あの()がいるんだ。

 さすがはレオンハルト先生。計算ずくでいらっしゃる。」


 少し嫌味交じりの笑顔で、エレナはレオンハルトに微笑みかけた。

 レオンハルトはそれに取り合わず、言葉を続ける。


「『転移』四、五倍程度の使用量の違いは、俺の扱える魔力総量に対して、そう大きいウェイトを占める訳じゃない。乱発しなければ大丈夫だ。

 宿場町の間を繋ぐ形で使用していけば、そんな心配も起こらんだろう。」


 そう言うと、レオンハルトは自身の研究室から持ってきたレポートに目を通し始める。

 内容の確認と、今後の方針をエレナと討論していくうちに、ガラス窓の外は気づけば夕焼けに赤く染まっていた。


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