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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第八章-出立
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報告

 学術院院長室の中、レオンハルトは瞳を閉じて応接用のソファに腰かけている。


 心の中の荒ぶりを抑え込んでいるのだろう。

 時折、深呼吸とも取れるため息をついて、部屋の主が現れるのを待っている。


 部屋の奥の間の扉が開き、学院長ディアナ・カーライルが姿を見せた。


「そのままで結構。」


 立ち上がって挨拶をしようとするレオンハルトを制し、ディアナは短く言った。

 彼女は音もなくソファの前まで向かい、そのまま腰掛ける。


「この後、リーマン君もやってくるはずだと聞きました。」


「その予定です。」


「では、その前にカウフマン君について話を片付けましょう。

 よろしいか?」


「構いません。」


 ディアナの口から教授の名が出た瞬間、空気が一気に張り詰めた。

 レオンハルトの顔には冷徹ともいえる表情が浮かび、ディアナはまるで白塗りの仮面をかぶったかのような、そんな面持ちになる。


 わずかな間をおいて、ディアナが口を開いた。


「カウフマン君は本当に死んだとお考えか?」


「五分、ですね。」


「なぜ?」


「あの日、教授は『自分は死ぬ』と明言しました。

 その後ろに安全圏があると確信した上で発した言葉です。

 をれをドブに捨てる真似をするほど、あの男は無能じゃない。」


 二人とも表情を変えることなく、言葉を重ねていく。


「しかし、死亡は確認されているが、それは?」


「焼け跡から見つかった黒焦げの死体が証拠とされています。

 だが、自分が知る限りでも、教授と背格好の似た使用人は邸宅に三、四人はいましたからね。

 影武者はいくらでも立てられる。」


「では、貴方が見た、人形(ひとがた)に撃ち貫かれた死体は?」


 レオンハルトは、うつむいて瞳を閉じる。


「そこが気になるんです。

 あの撃ち貫かれた死体は、間違いなく教授だった。

 そして、それは完全に絶命していた。

 教授が何をもって計画の成功としていたのか、それが不明瞭なんです。」


「成程……。

 では今後の方針として、カウフマン君の生存は視野に入れておくべきですね。」


「そうするべきかと。」


 やり取りが一段落したところで、部屋の扉にノック音が三回響いた。

 重い扉を開き、入ってきたのはエレナ・リーマンだ。


「遅くなりました。」


 エレナは、いくつかのレポートを携えてソファの横にやってきた。

 レオンは、そんな彼女に場所を開けるように、奥へ移動して座席を譲る。


「では、始めましょう。

 まずはフォーゲル君。あらましを。」


「承知しました。」


 ディアナの仕切りを受けて、レオンハルトはエレナの用意した資料を即座に確認し、自分の言わんとすることを組み立てていく。


 手始めに提示するべき書類を選択し、レオンハルトは言った。


「大変危惧するべき状況です。

 少なくとも、件の『閣下』からの援助をもって、教授は最低三箇所の遺跡を発掘していたと考えられるのです。

 しかもそれら全ては、第一級レベルでの危険な遺跡だと推測できます。」


「フォーゲル先生の言葉を補足するならば、その発掘の工程は、かなり進行していると見受けられます。

 可能ならば即時接収し、封印作業に取り掛かるべき案件です。」


 レオンハルトの静かだが迫力のある声と、エレナの静かで冷たい響きを持つ声。

 声の響きこそ対照的だが、目の輝きの中にあるものは同じに見える。


 正義感……いや、使命感だろう。

 教授の遺した負の遺産を清算するべく行動しようという意思。

 それが輝きとなって、瞳に宿っている。


「言わんとすることは解りました。

 ではこの件、如何に処するべきか?」


 言葉短かに問いかけるディアナに、レオンハルトは冷静に答えた。


「封印するべきです。」


 間髪入れず、エレナが言葉を繋げる。


「私もフォーゲル先生と同意見です。

 先にも申しましたように、即時接収、封印するべきです。」


「成程。」


 二人の意見を受け、ディアナはゆっくりと目を閉じた。


 しばしの間、沈黙が辺りを包む。


 ややあって、ディアナは緩やかに瞳を開き、二人に告げた。


「では、貴方たち二人に大公として要請します。

 遺跡を即時接収し、予備調査を行うこと。

 よろしいか?」


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