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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第七章-二人
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贖い

 メッセンジャーボーイがレオンハルト邸から駆け出していく。

 その様子を見送ったレオンハルトとミナトは、書斎へと入っていった。


「では……もう少し情報をまとめて、学術院に行く。

 夕食……いや、夜食の用意はお願いできるか?」


「もちろん大丈夫だけど……遅くなりそう?」


「少しばかりはな。

 だが、深夜とまではいかないはずだ。」


 情報端末に目をやりながらレオンハルトは答えた。


 ミナトはティーセットを片付けながら、ポツリとつぶやいた。


「なんだか、空回りしちゃったかな……。」


「そうでもない。」


 ミナトのつぶやきに答えるかのようにレオンハルトが口を開いた。


「君が来てくれたことで、少なからず生活の変化が出てきそうだ。

 それに今君にどこかへ行かれてしまうと、今後の世話の手配がままならない。」


「今後の世話?」


 不思議そうに尋ねるミナト。

 レオンハルトはそんな彼女に微笑みかけながら言った。


「軍に入るなら、自分にも伝手がある。

 そこから話を通せば、少しは有利に入隊できると思うんだがね。」


 一瞬、ミナトはきょとんとした顔を見せたが、すぐに不安そうな顔を見せて、おずおずと切り出した。


「でも……本当にいいの?」


「無論それ以外の道を望むなら、それなりの手筈を取る。

 ただ、今までの君の経歴を考えればこれが一番妥当だと考えたのだが、どうだろうか?」


 真面目な顔を見せて、レオンハルトが尋ねる。

 その言葉を聞いたミナトは心底嬉しそうな満面の笑顔を見せて、レオンハルトに答えた。


「ありがとう! そうしてもらえるとすごく嬉しい!

 軍に入るのが一番間違いなさそうだ、って考えてたからコネがあれば助かるよ。

 でも……でも、本当にいいの? なんだかこっちはもらってばっかりで、お返しできてないよ……?」


 先の笑顔から一転、俯き加減で哀しげにレオンハルトを上目で見るミナト。

 レオンハルトはそんな彼女に、真面目な顔のまま答えた。


「俺としては、君から全てを奪ってしまった事への贖罪の意味がある。

 たとえ事実がああだったとしても、俺の中では、まだ話は済んではいないんだ。

 だから、気の済むまでやらせてもらいたい。」


 レオンハルトは机に拳をついて頭を下げた。

 それを見たミナトは慌てて声を上げる。


「待って! 待ってよ!!

 そんな風に謝っちゃやだよ。

 あと、あたしにできることって言ったら……その……夜のお相手することぐらいかな……。

 なんちゃって……。」


「冗談でもそういうことは言うな。」


 軽い気持ちで行っただろうミナトの一言を、強い語調で窘めるレオンハルト。


 真剣な眼差しは、照れ隠しや恥ずかしさを誤魔化すようなものではない、強い意思を込めて、ミナトに向けられている。


「君の好意は嬉しく思っている。労働力の提供も大変助かる。

 だが、軽々に自分を切り売りするような真似はやめるんだ。いいな?」


「う……ん。」


 静かではあるが、その奥にある迫力に気圧されたミナト。


 そんな彼女の様子を見て、ある程度納得したように思えたのだろう。

 レオンハルトは小さくため息をつくと、語調を戻してミナトに謝罪した。


「すまない。こういった件には、少し神経質になりやすくてな。

 自分はできるだけ、人と深く繋がらないように気を付けている。

 だから、そう言ったことは困るのさ。」


 苦笑いを浮かべるレオンハルトに、ミナトは泣きそうな顔で訴えかける。


「それって……哀しいよ?

 人って繋がっていくものなんだよ?

 あたしとあなただって、こうやって知り合って繋がって……。

 ヒュウガも、エレナさんも、他にもいっぱいいるんでしょ?

 そんな言い方哀しすぎるよ!」


「それでも、さ。

 それでも俺はできるだけ一人で生きていく。

 そうしなければならないんだ。」


 レオンハルトは椅子に腰かけ、静かに目を閉じて言う。


 それはまるで、自分に言い聞かせているような、そんな雰囲気があった。


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