秘匿
「いやはや、同棲とは……。
やるわねぇ、あなたも。」
底意地の悪さを秘めたニコニコ顔で、レオンハルトをからかうエレナ。
対するレオンハルトの視線は、相変わらず端末の画面に釘付けだ。
しばらくしてノックが響き、お茶の用意をしたミナトが書斎に入ってきた。
「あら、お構いなく。」
微笑んでミナトに挨拶を投げかけるエレナに、ミナトは不機嫌さを露わにして答えた。
「いいえ、どうぞごゆっくり!」
書斎のドアが、やや乱暴に閉じられたのを見て、エレナは苦笑しながらレオンハルトに言った。
「嫌われちゃったかな?」
「悪いが、そんなことはどうでもいい。
問題はこの発掘の情報だ。」
「何が問題なの?」
その真剣な表情に顔を引き締めたエレナが、レオンハルトの横に立つ。
「これだ。この三番の遺跡になる。
この遺跡、ほぼ間違いなく熱線砲か、またはそれに類する何かを見つけたと考えられる。」
「中身は確認できない?」
「ここにある情報のみでは推測すらできん。
恐らく、この情報を取り扱う専用の『回路』があったはずだが、火災現場から掘り出すのは一苦労だろうな。」
端末を操作するレオンハルトの横で、エレナは何かを考えこむ。
不意に彼女が口を開いた。
「ごめんなさい。もう一度、三番の遺跡を見せて頂戴。」
レオンハルトは無言で端末を操作し、エレナの要求に応える。
エレナはその情報を食い入るように確認し、改めて口を開いた。
「これ、教授の端末に情報の一部があったわ。」
「間違いないか?」
「ええ。ただ、どんなものが埋まっていたのかまでは明らかじゃなかったけど。
でも間違いなく、これに関する情報よ。」
「じゃあ、そこから取り掛かるか……。」
レオンハルトは椅子から立ち上がると、来客用のテーブルに置かれた紅茶をカップに注ぎ、一啜りした。
やや冷めてしまってはいたものの、まだかぐわしい香りで一杯だったのは、ミナトがそう言った通りに、精一杯美味しく淹れてくれたからだろう。
少し前の苛立ちが嘘のように静まり、冷静な考えができるようになってきた。
「時にレオン。
三番っていう事は他にも遺跡は最低二つあるってことよね?」
エレナがそばに寄ってきて、一緒に紅茶を飲む。
レオンハルトは、そんな彼女の方に顔を向けることなく、紅茶をもう一口飲み、静かに答えた。
「そうなるな。
どちらも熱線砲ほどではないにせよ、何か重要な物が埋まっているようではある。
いずれにしても、何らかの形で調査に行かねばならん。
それも早急に。」
「久しぶりのフィールドワークね。
頑張って行ってらっしゃい。」
レオンハルトの言葉を聞いて、微笑みながら手を振るエレナ。
だが、レオンハルトはそれに取り合うことなく言葉を続けた。
「君にも手伝ってもらう予定だぞ、エレナ。
まずは学院長へ今日中に報告し、裁断を仰ぐ。
遅くとも今月中には旅の空だ。
今日は帰って旅装を検めておいた方がいい。」
「本当、冗談がきついわね……。」
レオンハルトの真剣な目に、エレナもまたつられて真剣な眼差しになる。
エレナは真剣な表情を崩すことなく、そのままレオンハルト邸を後にした。