ミナトとコム
「改めてご挨拶します。
コムと言います。」
少々不機嫌な響きを持つ少年の声がレオンハルトの執務室に響く。
そんな『不機嫌』という意思を感じさせる無表情な機械に対してミナトは呆気に取られた顔を見せ、コムを指さした。
「なに、コレ?」
「指さして『コレ』はひどいんじゃないですか!?
ちゃんと挨拶してるのに!」
憤慨した様子を見せるやや大きめの声。
そのコムの語調に驚きの表情を見せるミナトへ、レオンハルトは苦笑を交えて説明し始める。
「コムは自分の執事みたいなものだ。
こと、仕事についてはかなり有能な相棒となる。
この間の教授の邸宅でも見せたように、強力な防壁を発生させたり、誰にも知られぬよう身を隠すこともできる。
それに、こういった会話もこなせる上、疑似的にとはいえ人格もあるんだ。
慣れないと難しいかもしれないが、できるだけ人として扱ってやってほしい。」
レオンハルトの最後の一言に、ミナトはハッとした表情を見せた。
そのまま、少し哀しげに瞳を伏せ、改めてコムに向き直る。
「そうだよね……。
ゴメン、少し軽率だったよ。
これからはあんな失礼な真似しないから。」
「わかってくれればいいです。
こちらも少し強く言ってしまい、申し訳ありませんでした。」
コムの涼やかな声を聞いたミナトの顔に笑顔が浮かび、場が和らいだ。
その様子に微笑むレオンハルトへ、ミナトが尋ねる。
「ねぇ、この子ってあなたが作ったの?」
穏やかな顔のまま、レオンハルトはミナトの問いに答えた。
「いや、こいつは遺跡の中から引っ張り出してきた。
さすがにこれほどのものを作れるだけの技術は、今のところ存在していない。」
そんなレオンハルトの答えを聞いているのかいないのか、コムを興味津々といった風に様々な角度から見ているミナト。
その視線を受けて、もじもじとするかのごとく、その頭や身体の向きを変えていくコム。
「でも、凄いよね、遺跡って。
こう言っちゃうとまた失礼だけど、こんな機械がたくさんあるんでしょ?
一回行ってみたいなぁ……。」
ミナトの言葉を聞いたレオンハルトは、どことなく哀しさを漂わせた表情で、つぶやくように彼女へこう告げた。
「そこまでいいものじゃないがね。」