未明
「馬鹿げてるわね、決闘なんて。」
いつにも増して辛辣な物言いでエレナはレオンハルトに言い放った。
「馬鹿げてはいるかもしれん。
だが、この間も言ったように、一度十分な時間が欲しいと思っていたところだ。
滅多にないチャンスだと考えるが?」
制作中の義手の接続を確認しながら、レオンハルトは答える。
その様子に苛立ったかのような声で、エレナはさらに問い質した。
「もしあなたが死んだらどうするのよ!
義肢の研究は途中のまま、教授の罪状の洗い出しも不十分、何もかも放り出して死んでいって、周りにどう詫びるのよ!」
「死なないさ。」
「根拠は!?」
「まず一つ。少なくとも、俺は彼女には負けない。
これは絶対だ。余程の隠し球を向こうが持っていない限り、俺は負けない。
次に、俺は事実を知った。必要以上にあの件を思い煩うのをやめたつもりだ。
そして最後に……。」
「最後に……なに?」
「多分彼女も悩んでいる。自身の復讐が正しいかどうかを。」
レオンハルトはそう言うと、機能複合型のバイザーをかけ直し、手に取った義手の様々な機能を、再び検査し始めた。
エレナはそんなレオンハルトを見て、呆れたようなため息をつく。
決闘は翌未明。
だが、起こすよう指定された時間にコムがベッドを確認したところ、もうそこはもぬけの殻だった。