果たし状
「悪いね、たくさんもらっちゃってさ。」
ミナトの定宿に、ヒュウガが今回の報酬を持ってやってきた。
報酬の金額は金貨で五枚。
帝国での通常の生活においては、金貨は貯蓄貨幣としての傾向が強く、専ら銀貨が使われている。
金貨五枚は銀貨換算で五十枚に相当する。これは二ヶ月ほどちょっとした贅沢をしながら食べていけるだけのものだ。
この報酬の額は、傭兵として一流と認められていることも踏まえ、それなりの色が付いたのだろう。
だが、彼女は金貨の枚数を検めても、淡々とした表情だった。
「足りない……ってワケじゃなさそうだな。」
ヒュウガが小さいテーブルの上にある、二つのグラスに酒を注ぐ。
「まあね。額は十分すぎるよ。
仕事に出たのは都合二回、それもあまり活躍できずにこれだからね。」
布袋の口を締め、ベッドの横に置いた背嚢へと無造作にしまい込む。
彼女は再びテーブル前の椅子に座り、大きくため息をついてグラスを手に取った。
「辛そうじゃねぇか。」
「そりゃ辛いよ。
全部ひっくり返っちまったからさ。」
「だが、やめる気はねぇ。」
「ないね。」
「立ち合いは必要かい?」
「いや、大丈夫さ。
どう転んでも、これで終わりにする。」
ミナトはそう言って寂しそうに笑うと、グラスのバーボンを一気に飲み干した。
ヒュウガもそれに合わせてグラスをあおる。
テーブルの上には、一通の封筒が置かれていた。
宛名はレオンハルト・フォーゲル。
その中身は果たし状と呼ばれるものだった。