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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第五章-修羅
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修羅

 割れた窓から再び外へ出たヒュウガとミナトは、戦いを続けるクリストフたちと合流した。


「状況は?」


 クリストフへと短く問うヒュウガ。


「五分……ですかね?

 隊長は?」


「コッチは失敗だ……。

 予想外のヤバいヤツが出た。」


 クリストフは明るく答えたが、ヒュウガの声は重く沈んでいる。


「ヤバいヤツ……?」


 クリストフがそう言った瞬間、一筋の光が遥か屋敷の中から輝いた。

 光線はクリストフの右肩に当たり、鋼鉄の肩当てを射抜く。


「ぐっ!?」


 小さく呻いてうずくまるクリストフ。


「大丈夫か!?」


 ミナトがクリストフに駆け寄る。


「み、右肩をやられました……。

 一体何が?」


「恐らく……遺跡の人形(ひとがた)だ。」


「遺跡の!?」


 ヒュウガの一言に、驚愕するクリストフ。


 屋敷の方からは何筋もの光線が光り、瞬いている。

 気が付けば、屋敷の方々から火の手が上がり始めていた。


「いかん!!」


 その状況を見たヒュウガが、大急ぎで屋敷へと駆け出した。


「ヒュウガ、どうすんのさ!?」


「このまま、あの外道を逃がすワケにはいかん!!」


 そう叫ぶと、ヒュウガは弾丸のような速度で一気に戦場を駆け抜ける。

 それを見たミナトもまた、警備兵を斬り倒しながら屋敷へと向かった。


 屋敷からは、執事や使用人などが大慌てで逃げ出している。

 だが、それを追うように人形が現れ、無差別に人を殺していくのが見えた。


「コイツら……!!」


 怒りを露わにしたヒュウガが渾身の右ストレートを四角いボディに叩きこむ。

 しかし、人形のボディは傷がつくどころかへこみすらしない。


「どいてっ!」


 ヒュウガの後ろから軽く跳び上がり、全身の体重をかけて大斧を振るうミナト。

 刃が割れたのではないかとというほどの衝撃はあったものの、ボディにはやはり傷一つついていない。


 カシャリ、カシャリと一歩ずつ近づいてくる人形。そこに強烈な破裂音と共に、蒼白い雷光が叩きつけられた。


「無事か、二人とも!?」


 レオンハルトが駆け寄って尋ねる。


「そっちはどうだ!?」


 答えるヒュウガの声は荒々しい。教授の動向が気にかかるのだろう。

 それに対し、冷静にレオンハルトは口を開いた。


「教授は死んだ。」


「なんだと!?」


「この人形の攻撃に巻き込まれてな。

 こいつらは全く制御されていない。

 ただ目の前にいる人間を殺すための殺戮機械だ。」


 レオンハルトが言葉を漏らしているところに、ミナトの目が見開かれた。


「後ろ!」


 気づいた時には、もう光線が輝いていた。


 だが、何かのフィールドが瞬き、その光線を防ぐ。


「危ないところでした。」


 少年の声が響き、何もなかったはずの虚空からスッ……と、コムが姿を現す。


「なに……これ?」


 きょとんとするミナトをよそに、レオンハルトは険しい声をコムに向けた。


「コム、なぜここに!?」


「シュヴァルベさんから連絡を受けたんです。

 少々、状況が危険かもしれないって。」


「シュヴァルベが、だと?

 まあ、いい。好都合だ……。」


 レオンハルトは一瞬戸惑った顔を見せたが、すぐに視線を人形に戻すと、コムに向けて叫んだ。


「コム! 解除しろ!!」


「対象は十一。仕方ありません、許可します。

 ただし制限は……。」


「三分あればいい!!」


「了解です。では五分許可します。」


「よし!!」


 コムとのやり取りが終わると、レオンハルトの左手が輝き始めた。

 左手の甲、そこに埋め込まれた『回路(サーキット)』が起動したのだ。


 通常の『回路』ではない。


 手の甲の上にある空間に、扇状の蒼く輝く『回路図(サーキットイメージ)』が幾重にも展開されている。

 魔力を感じられる者ならば、そこから莫大なまでのエネルギーの奔流が感じられることだろう。

 輝きが頂点に達し、白銀となった左拳を握りしめ、レオンハルトは眼前の人形に向けて突進する。


「おおおおおおおっ!!」


 輝く左拳が、黒いボディに叩きつけられる。


 ヒュウガの拳が、ミナトの大斧が、傷つけることすらできなかったそのボディを、レオンハルトの左拳は易々と貫き、その内側の機械すらも破壊する。


 琥珀色の瞳が怒りに輝き、次の獲物を捕らえた。

 怯える事もないまま、光線を次々に瞬かせる人形。


 しかしその光線はどれ一つレオンハルトに届くことなく、何かの障壁に阻まれ蒸発するかのように虚空へと消えていく。


 接近した人形に対して、瞬間的に右手で『衝撃』の魔法を放つ。

 その威力は、人形のボディを吹き飛ばしたのみならず、内部の機構の一部が焼けただれて吹き飛ぶ程のものだった。


「待ってくれ……どうなってんだ? アイツは……。」


「左腕の義手の力ですよ。

 あの特殊な『回路』を用いれば、『魔導球(サーキットスフィア)』の展開なしで魔法を使用できるのです。」


 ヒュウガの言葉に答えるかのように、茂みの影からシュヴァルベが姿を現した。


「よく間に合ってくれましたね、コム。

 しかし、義手の力がここまでとは予想外でした。」


「いえ、まあ……。

 でも、どうしてあなたがこの事を知ってたんです?」


「さて、どうしてでしょうか……。」


 くすくすと忍び笑いを漏らすシュヴァルベ。


 その向こうでは、人形を拳と魔法とで次々と破壊するレオンハルトがいた。

 振るわれる一撃は正体不明の金属を微塵に砕き、中の機械を露出させる。


 そんな機械の傷口へと、抉りこむように拳を突き入れ、駆動のための機構を配線ごと引きちぎる。


 光線を弾き飛ばしながら魔法が乱れ飛び、次々と機能停止していく人形。

 そんな物言わなくなった相手にすら、容赦なく魔法の弾丸を雨あられと見舞う。


 何もかもを破壊し尽くそうという意思の元、悪鬼の形相で次々と人形を抹殺していくレオンハルト。

 その破壊の徹底ぶりは、もはや人形への虐殺ともいえる程だ。


「さあ、よくご覧なさい、牡牛のミーナ。あれが貴方の討とうとする男です。

 彼がどれほどの修羅を内に秘めているのか、その目をもって確かめられればよろしかろう。」


 シュヴァルベの言葉通り、今のレオンハルトは修羅だった。


 いつもの彼が見せる事のない怒りと憎しみの表情で、次々に人形を破壊するその様を目の当たりにし、ミナトは自らの中にある憎しみに、そして新たに芽生えた意思に向き合うことを決心していた。


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