不測
「何だと!?」
「はい、リンク軍曹が急ぎ連絡しろと。」
使いの人間の言葉に、ヒュウガの顔色が変わった。
それと同時に、眉根を寄せ深く考え込み始める。
「どうしたのさ?」
ミナトが大斧の素振りをやめて、ヒュウガの元にやってきた。
彼はミナトに向けて、言った。
「レオンのヤツが、学術院を飛び出していったらしい。
恐らく行先は教授の自宅だろうな。」
それを聞いたミナトは小首をかしげて考える。
「でも、押収作業はまだ明日のはず。
あたしたちが動くのは、その夕暮れだよね?」
そんなミナトの言葉に、ヒュウガが答えた。
「ああ。こいつぁなにか学術院でゴタがあったな?
査問会終了後、レオンハルトが警備につくという線が完全に崩れた。
やむを得ん。俺たちも急ぎ教授の自宅に向かう。
いけるか? ミナト。」
「ああ。十分回復はしてる。」
「よし。」
訓練場の出口から小走りで厩舎に向かう。
そこには以前使った馬が、ノンビリと干し草を食んでいた。
「さ、食事は終わりだよ。」
一回り大きい軍馬に、優しく声をかけ、首を撫でるミナト。
軍馬はそれに答えるかのようにブルル……と鼻を鳴らした。
ヒュウガとミナトは、馬にまたがり、厩舎の出口へと歩を進めていく。
「伝令!」
ヒュウガが叫んだ。
その号令を聞いた伝令の一人が駆け足でやってきた。
「マイヤー曹長、リンク軍曹に、目標の屋敷に向かうよう伝えろ。急げ!」
伝令は無言で敬礼をすると、施設の奥へ向かい走っていく。
「テオは、今どこに?」
姿の見えないテオについてミナトが尋ねる。
その問いに、間髪入れずヒュウガが答えた。
「教授の家だ。
どうにも嫌な予感がする。俺たちも急ぐぞ。」
カモフラージュの茂みから馬を走らせ、二人は一路教授宅へ向かった。
夕暮れの中、馬は走る。
そんなヒュウガの心の内では、得体の知れぬ大きな不安が渦巻いていた。




