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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第五章-修羅
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不安

 翌日の昼。


 学術院の病院にエレナはやってきた。

 向かう先はレオンハルトの病室。


 だが、入った瞬間彼女の目に入ったのは、ベッドから起き、学術師の制服に袖を通しているレオンハルトだった。


「ちょっと! まだ休んでなきゃダメでしょう!?」


「休んでいる暇はない。

 学術院内に残っている情報をかき集めて、明日の査問会に備える必要がある。」


「そんなのは学芸員に任せておけばいいじゃない。

 あなたが直接やる事じゃないわ。」

 ボタンを留めながら、レオンハルトはエレナに言う。


「気になるんだ……。」


「何が?」


「教授の研究対象だ。

 もし学術院にもその情報が残っていたら、俺たちが知らないはずがない。

 逆に俺たちの知っている遺物の中で最大級に危険な物と言えば、何だ?」


「熱線砲……。」


「そうだ。あれがもし封印されておらず、研究対象として秘密裡に研究されていた場合のことを考えた。

 もし俺の勘が正しいなどということがあったら、査問会より先に教授の身柄を拘束する必要が出てくるかもしれん。」


 エレナは訝しげな視線をレオンハルトへ向ける。


「でも、あなたこの間ツェッペンドルンへわざわざ出向いたんでしょう?

 そこには何も残ってなかったって言ってたじゃない。」


「そこには、な。」


 詰襟のホックをパチン、とはめ、レオンハルトはエレナに向き直った。


「だが、あれが一つきりとは限らない。

 もう既に別のどこかで発見され、その下準備として情報を精査していたことも考えられる。

 どうかしたら、残骸なども三公爵の手に渡っており、その復元まで話が進んでいるかもしれんぞ。」


「連中の目的はそれってことかしら……。」


「解らんな。だから、それを調べる。

 そのためにも、もたもたはできん。」


 真剣な目で出口へ向かうレオンハルトの背中へ、エレナが声をかけた。


「全く……本当に気が付いていないのかしらね?」


「何の話だ?」


 不思議そうな顔をし、レオンハルトが振り向く。

 そんなレオンハルトに、エレナは呆れた表情で諭すように言った。


「あなた、誰がここまで運んでくれたと思ってるの?」


「君じゃないのか?」


「私の力じゃそんなことできないわよ。

 それにあなたの容体は一刻を争うものだったそうよ?」


「じゃあ、誰が?」


「ミナトさんよ。様子がおかしすぎるって気が付いて、彼女が大急ぎで運んでくれたの。

 あなた、昨夜のテロの一件で、ずっと彼女に尾行されていたのに気づいてなかったでしょう?」


「そうだったのか……だが、なぜ君がそんなことを?」


「あなたが飛び出して行った後に現場へ向かったら、ちょうどあなたがいつもの教会へ向かう所だった。

 それを追っているミナトさんがいたから『隠形』でちょっと、ね。」


 エレナはそう言うと、腰のポケットから『回路(サーキット)』を一つ取り出した。


『回路』には特定の魔法を発現させるものがかなりの数存在する。

 効果はかなり限定的である上、魔力を引き出すための訓練が必須だが、そのハードルを超えることができれば、インスタントではあるものの誰もが魔法使いになれるのだ。

 そう言った意味でも『回路』の有用性は高く、多くの国では個人での売買を制限し、国家がその所有などの管理を行っている。


 ころり、と手の内で『回路』を転がし、エレナはレオンハルトに言った。


「あと、彼女からの伝言。

『仇とはいえ、今夜討つのは武人として恥だ。だが、近く必ず決着をつける。』

 だ、そうよ。」


「決着? そう言ったのか?」


「ええ、それが何か?」


「そうか……『殺す』のではないんだな。」


 レオンハルトは静かに目を閉じ、何かをゆっくりと考えている。


「時にレオン、もたもたしてる場合じゃないんでしょう?」


「そうだったな。

 エレナ、悪いが徹夜も覚悟してくれ。」


「冗談でしょう!? さすがにそれは勘弁願いたいわ!」


 険しい目つきでドアを開け、病室を出るレオンハルト。

 そんな彼を見た医者が慌てて戻るよう引き留めるが、レオンハルトはそれを無視し、大股で病院を出ていく。

 その瞳は遺跡工学部のある棟へ向けられていた。


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