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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第五章-修羅
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懺悔

 よろめいた足取りで、レオンハルトは街外れへと歩いていく。

 時折壁にもたれかかって息を整えているのを見ると、相当大きな負担があったのだろう。


 周りの人間はまるで酔っ払いでも見るかのように、我関せずと通り過ぎているが、数クラムの距離を離して、牡牛の角を持つ女が尾行しているのまでは気が回らないらしい。


(どこへ行くんだ? もう自宅とはまるで別の方角だぞ?)


 ミナトは疑念を持ちながら、後をつける。


 レオンハルトはどんどん人気のない方向へと向かっていく。


(気づかれている!? いや、そんなはずは……。)


 ミナトも傭兵時代にかなりの訓練を積んだ。気配を殺して相手の後を追い、敵陣に奇襲をかけたことは一度や二度ではない。

 それにあの困憊ぶりだ。とても周囲に気を回せるようにも思えない。


 気づけば、もう街灯の灯りすらない、真っ暗な一角までやってきている。

 粗末な墓が立ち並ぶ、不気味な場所。

 レオンハルトは、『照明』の魔法を使い、よろよろとそこにあった崩れかけの教会へと入っていった。


 十分な時間を見計らい、窓から中の様子を覗く。

 中では、蝋燭に魔法で火をつけていくレオンハルトがいた。


 蝋燭の光で明々と照らされる礼拝堂。レオンハルトは真ん中の長椅子に腰かけ、祈るように、組んだ両手で頭を支えている。


「何をしているんだ……?」


「懺悔よ。」


 ボソリとつぶやいたミナトの角に、コツリと固いものが突き付けられた。

 顔をそのままに目だけを横に向けると、そこには婦人用の小型拳銃を突き付けるエレナがいた。


「あんた、確かレオンハルトの同僚だったね?」


「ええ。エレナ・リーマン……覚えておいてもらえるかしら?」


 静かな、だが強烈な緊張感が二人の間に流れる。


「やめときな。そんな豆鉄砲じゃ、あたしの角は折れやしない。」


「そうかしら? もしこれが魔導器だったら?」


「火薬の臭いのする魔導銃なんてあるのかい?」


 静かに言葉を交わす二人。そのやり取りの中、エレナはスッと銃口を外した。


「やめときましょう。

 あなたもどうやらここで仕掛ける気はなさそうだし。」


「そうしてもらえると嬉しいね。

 こっちだって、無駄に人を傷つけたくない。」


 真剣なミナトの顔とは対照的に、苦笑交じりで首を小さく横に振るエレナ。


 そんな彼女に、ミナトは質問を投げる。


「懺悔って言ったね?」


「ええ。救えなかった命に対しての謝罪。

 こんな事件がある度に、彼はああやって人を救い、救い切れなかった人へ謝罪するの。

 彼は純粋に善意でこの行動を起こしてる。

 まあ、中には錯乱して恨み言を言う人もいるでしょうけど、本来なら誰も責めたりしないし、責めることなんてできない。

 でもね、救えなかった命があったという事実に対して、彼は自分自身を責め立てるの。

 十年前の後悔をまだ引きずっているのよ、彼は。」


 エレナの言葉に目を閉じて考えるミナト。

 その様子を、エレナはどこか冷徹な目で見つめている。


 エレナの視線がレオンハルトへ向かった。


 その瞳に映ったのは、微動だにせず同じ姿勢で祈り続けているレオンハルトだ。


「おかしいわね……。」


 エレナがつぶやく。


「あなた、彼が何人に魔法を使ったか覚えていて?」


 その声に驚いた様子で、エレナの顔を見るミナト。


 少しの間考えると、思い出せる限りの人数を数える。


「確か……十二……いや、十三人ほどだったはず……。」


「まさか!」


 ミナトの言葉を聞き、エレナは大急ぎで教会の入り口に向かう。その後について、ミナトも駆け出した。


「どうしたのさ?」


「『治癒』の魔法はいくらレオンでも七、八人までが限界のはずなのよ!

 そんなに使ってたら、気絶どころか発狂しかねないわ!」


 教会の扉を勢いよく開け、エレナはレオンハルトの元に駆け寄り、その肩を揺さぶった。


「レオン? レオン!?」


 その衝撃で、僅かなバランスで保たれていた姿勢が大きく崩れる。


 レオンハルトは首を垂れ、力なく腕をぶら下げていた。

 糸の切れた、操り人形のように。


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