懺悔
よろめいた足取りで、レオンハルトは街外れへと歩いていく。
時折壁にもたれかかって息を整えているのを見ると、相当大きな負担があったのだろう。
周りの人間はまるで酔っ払いでも見るかのように、我関せずと通り過ぎているが、数クラムの距離を離して、牡牛の角を持つ女が尾行しているのまでは気が回らないらしい。
(どこへ行くんだ? もう自宅とはまるで別の方角だぞ?)
ミナトは疑念を持ちながら、後をつける。
レオンハルトはどんどん人気のない方向へと向かっていく。
(気づかれている!? いや、そんなはずは……。)
ミナトも傭兵時代にかなりの訓練を積んだ。気配を殺して相手の後を追い、敵陣に奇襲をかけたことは一度や二度ではない。
それにあの困憊ぶりだ。とても周囲に気を回せるようにも思えない。
気づけば、もう街灯の灯りすらない、真っ暗な一角までやってきている。
粗末な墓が立ち並ぶ、不気味な場所。
レオンハルトは、『照明』の魔法を使い、よろよろとそこにあった崩れかけの教会へと入っていった。
十分な時間を見計らい、窓から中の様子を覗く。
中では、蝋燭に魔法で火をつけていくレオンハルトがいた。
蝋燭の光で明々と照らされる礼拝堂。レオンハルトは真ん中の長椅子に腰かけ、祈るように、組んだ両手で頭を支えている。
「何をしているんだ……?」
「懺悔よ。」
ボソリとつぶやいたミナトの角に、コツリと固いものが突き付けられた。
顔をそのままに目だけを横に向けると、そこには婦人用の小型拳銃を突き付けるエレナがいた。
「あんた、確かレオンハルトの同僚だったね?」
「ええ。エレナ・リーマン……覚えておいてもらえるかしら?」
静かな、だが強烈な緊張感が二人の間に流れる。
「やめときな。そんな豆鉄砲じゃ、あたしの角は折れやしない。」
「そうかしら? もしこれが魔導器だったら?」
「火薬の臭いのする魔導銃なんてあるのかい?」
静かに言葉を交わす二人。そのやり取りの中、エレナはスッと銃口を外した。
「やめときましょう。
あなたもどうやらここで仕掛ける気はなさそうだし。」
「そうしてもらえると嬉しいね。
こっちだって、無駄に人を傷つけたくない。」
真剣なミナトの顔とは対照的に、苦笑交じりで首を小さく横に振るエレナ。
そんな彼女に、ミナトは質問を投げる。
「懺悔って言ったね?」
「ええ。救えなかった命に対しての謝罪。
こんな事件がある度に、彼はああやって人を救い、救い切れなかった人へ謝罪するの。
彼は純粋に善意でこの行動を起こしてる。
まあ、中には錯乱して恨み言を言う人もいるでしょうけど、本来なら誰も責めたりしないし、責めることなんてできない。
でもね、救えなかった命があったという事実に対して、彼は自分自身を責め立てるの。
十年前の後悔をまだ引きずっているのよ、彼は。」
エレナの言葉に目を閉じて考えるミナト。
その様子を、エレナはどこか冷徹な目で見つめている。
エレナの視線がレオンハルトへ向かった。
その瞳に映ったのは、微動だにせず同じ姿勢で祈り続けているレオンハルトだ。
「おかしいわね……。」
エレナがつぶやく。
「あなた、彼が何人に魔法を使ったか覚えていて?」
その声に驚いた様子で、エレナの顔を見るミナト。
少しの間考えると、思い出せる限りの人数を数える。
「確か……十二……いや、十三人ほどだったはず……。」
「まさか!」
ミナトの言葉を聞き、エレナは大急ぎで教会の入り口に向かう。その後について、ミナトも駆け出した。
「どうしたのさ?」
「『治癒』の魔法はいくらレオンでも七、八人までが限界のはずなのよ!
そんなに使ってたら、気絶どころか発狂しかねないわ!」
教会の扉を勢いよく開け、エレナはレオンハルトの元に駆け寄り、その肩を揺さぶった。
「レオン? レオン!?」
その衝撃で、僅かなバランスで保たれていた姿勢が大きく崩れる。
レオンハルトは首を垂れ、力なく腕をぶら下げていた。
糸の切れた、操り人形のように。




