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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第五章-修羅
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『神速』

「まだまだだな。」


 ヒュウガはミナトに向けて言った。


影の兵士隊(シャッテンクリーガー)』の秘密訓練所。その闘技場の真ん中にヒュウガとミナトがいた。

 彼の目の前には、肩で息をするミナトがうずくまっている。


「お前ぇさんの戦闘力は確かなモンだ。

 そこらの兵隊なんかじゃ歯が立たんだろう。

 それに加えて『神速』なんか使った日にゃ一人で三百人なんて噂も頷ける。」


 跪いて息を整えていたミナトが顔を上げてヒュウガに向き直った。

 それを見たヒュウガが、彼女の目の前にドッカと座り込む。


「だが、『神速』を使った後が悪ぃ。言ってみりゃ雑だ。

 同じ速さで動き回る相手を敵に回したことがねぇだろう?」


「そりゃ……ないさ……。」


 ようやく息が整ってきたミナトが一言発した。

 大きく深呼吸して、さらに言葉を続ける。


「基本的に……魔法を使ったのは、魔獣狩りとアルコスの件だけだよ。

 おんなじ速さで動き回る相手なんて、予想もしてなかった。」


「だろうな。」


 ヒュウガは自分の顎に手をやって、撫でまわす。


「お前ぇさんの最大の誤算は、アイツがただの魔導士じゃなかった事だろう?

 殴り合いを得意とするような魔導士なんざ、そうそういやしねぇ。

 逆に言えば、そんなことができるヤツはかなり少ねぇワケだから、もうちっとキッチリ調べをつけるべきだったな。」


「痛いね、それ……。」


 悔しげに言うミナト。


 ヒュウガは立ち上がり、ミナトに手を差し出す。

 彼女はその手を握り、一気に立ち上がった。


「もう一度行くぞ。

 お前ぇさん、戦いの基本はもう身に染みついている。

 これ以上何も言う事はねぇ。

 問題はそこから先の高速での戦闘だな。

 コイツをモノにせんと翻弄されておしまいだ。」


「やってやるさ。

 そうしなきゃ、仇討ちなんて到底無理だからね。」


 哀しそうな顔でため息をつき、ヒュウガが尋ねた。


「やめる……ってのはねぇのか?

 お前ぇさんとアイツのしがらみは相当なモンだ。

 許せないのはわからんでもないが、もうアイツは十二分に苦しんでる。

 それで見逃してやるワケには……。」


「ポーズ取って取り繕ってるってこともあるだろ?

 明確な証拠がない限り、許すことなんてできないね。」


「そうか……。」


 双方は再び構えを取り、ミナトは『神速』を使う。

 目にも止まらぬスピードで動き、そして拳と斧を振るう二人。


「いいか、『神速』のコツは!」


 あえて大ぶりの一撃を繰り出すヒュウガ。フック、アッパー、バックナックル、回し蹴り、全てが見え見えの攻撃だ。


「全身の筋肉の反応速度が上がるってこった。

 つまり、得物の振りも速くできる!」


 大きく横蹴り。それを斧の柄で受けるミナト。

 ズズッと、半歩分押し返されるほどの衝撃に歯を食いしばる。


「限界を身体に覚えこませろ!

 どこまでやったらマズいかを認識しろ!

 その限界まで振りを速く、鋭くするんだ!」


 素早く一歩を踏み込んで、大斧を右に左に素早く振り回す。

 時折大上段から一気に振り下ろすが、ヒュウガにはまるで当たる気配はない。


 そして再び大斧を大きく振りかざしたその直後、ミナトの動きがガクン、と重くなった。


 魔法が切れたのだ。


「今日はここまでだ。」


 ヒュウガが息を整えつつこう言った。

 ミナトも再び息を切らせている。


「慣れない人間が魔法を二度も使えばそうなるだろう。

 だが、ヤツはそれの遥か上をいく。

 前にも言ったが、ヤツは五種の魔法を己にかけて、なお、攻撃魔法を拳に乗せてくる怪物だ。

 だからこそ、最低でもこの『神速』による戦闘をモノにしてもらわんと次の仕事は任せられん。」


「次の……仕事……?」


「ああ。次は二日後。

 今度はいよいよ、本気でかかる。」


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