因果
「推測だが……。」
翌朝、研究室でエレナを前にレオンハルトが切り出した。
「彼女の持つ『回路』、あれは事故を起こした熱線砲のエネルギー抽出用の物だと考えられる。
事故の後、軍が現場を調査したのは俺も覚えているし、取り調べも受けた。
その時の責任者が熊の獣人だった。あの人がオスカー・グリム卿だろう。
彼がその危険性を感じ、自身の手で封印しようと考えた可能性はある。
誰の手にも渡らぬよう、自らの大斧に『回路』を埋め込んで管理する。
学術院の権威が一時的に失墜した事件だ。
そういったことが許される風潮だったしな。」
いったん言葉を切り、紅茶を一口啜りこむ。
ふぅ……と一息ついたところで、レオンハルトは再び口を開いた。
「加えて言うなら、そのオスカー卿も『力』を欲していたのかもしれない。
もし魔法を使うことができれば、この上ない戦力強化につながる。
最前線に身を置く軍人だ。
その辺りの必要性は何にもまして重要だったことだろう。」
「因縁ね……。」
レオンハルトの言葉にエレナはつぶやいた。
「だってそうでしょう?
自身の村を焼いた『回路』を利用して、あなたを殺そうとしているなんて。」
「それも仕方ない話だ。
彼女がこの事に気付いているにせよ、そうでないにせよ、断罪という点ではこの上なくうってつけじゃないか?」
寂しそうな笑顔を見せつつ語るレオンハルトに、エレナが苛立ったような言葉を返してきた。
「いい加減、それ止めて欲しいわね。
あなたは納得ずくでいいのかもしれないけど、周りの人間がどういう気分でいるか、解ってないんじゃなくて?
皆あなたの事を心配しているのよ?
あなたが殺されたら、その義肢の研究は誰が引き継ぐの?
多くの人たちの希望を、あなた一人の破滅願望で潰えさせるなんて許される訳ないでしょう?
不本意かもしれないけど、生きてもらわなきゃ。
少なくとも、彼女に討たれるのは願い下げね。」
「理解はしているさ。」
カップをそっと机の上の皿に置き、レオンハルトはエレナの抗議に答えた。
椅子を回して窓の外を見る。
新緑の木々が風に揺れ、心地よい音を立てている。
その様子をぼんやりと眺めながら、レオンハルトは言葉を続けた。
「このまま討たれるのは彼女のためにもならない。
俺のやるべきは彼女を救うことであって、間違った欲求に応えることじゃない。
それこそが真の贖罪だというのは理解している。」
「あえて茨の道を行くのはあなたらしいと言えばあなたらしいけど……。
できるのかしら、本当に……。」
「やるしかなかろう?」
レオンハルトは椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。
「いずれにせよ、一回とことんまで話し合うか、全力を出し切って闘うか。どちらかをやらねばならん。
今彼女に必要なのは、納得できる答えだと自分は考える。
なによりも、二人での時間が欲しいところだな。」
彼がそう言い終えたところで、ドアがノックされた。
開かれたドアから年若い学芸員の青年が部屋に入ってきて、彼らに一礼する。
エレナとレオンハルトの視線を受け、やや緊張した面持ちで青年は言った。
「学院長がお呼びです。
リーマン先生もご一緒に、との事でした。」




