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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第四章-『回路(サーキット)』
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ツェッペンドルン

 ツェッペンドルン――帝国南東部の村。


 かつて四公爵(・・・)の一人だった、オットー・リューガーが治めていた帝国南東部一帯、その国境線にあった、防衛拠点としての村。


 国境付近に存在する村ゆえに、幾たびとなく戦火に焼かれてきた。


 その中でも最大だったのは十年前の第二次国境紛争。


 しかし、これは戦闘によるものではなく、遺物の暴走による事故で村が全壊したという悍ましい記録が残っている。


 その結果、村の全てが焦土と化したことで、作物もろくに育てられない地となり、ほんの数人生き残った村人は、各々縁者を頼りに何処かへと散り散りになったという。


 そんな村にレオンハルトはやってきた。


 魔法『転移』――空間の点と点を繋ぎ一瞬で長距離の移動を完了させる魔法。


 この魔法を使用したことにより、わずか二十分足らずで、帝都からの三百ロークラムを移動したのだから、魔法の力がどれほどのものかが窺い知れる。


 峠の上、眉根を寄せて険しい目つきで村を見下ろす。


 ポツリ、ポツリと明かりの灯った家が見える。だが土地のほとんどは荒れ地のままだ。かつての農村地だった面影はまるで残っていない。


 嘆きと悔しさと苦しみで一杯の胸の内をようやく抑え込み、レオンハルトは村へ向かい歩を進めた。


 向かうは近隣の山、その山腹。


 大地を蹴り、空へと舞い上がるレオンハルト。


 加速。


 ゴォッ……という風圧を一瞬感じだものの、『飛翔』の魔法によって発生した力場(フィールド)が、その圧力を一気に消滅させる。


 数分飛んだところで、事故のあった山腹が見えてくるはずだ。


 闇夜の中を見通すためのバイザーを装着し、地面を見回す。


 見えた! 記憶通りだ。


 短めのマントをはためかせ、その山の傷痕に降り立つ。


 この場所にくるのは、何度目だろう。


 レオンハルトの記憶の中でのこの場所は、何もかもが輝いていた。


 謎と神秘の遺物、その研究に情熱を注ぐ友人、仲間。

 信頼できる先達であったはずの教授。そして温かい村人たち……。


 その全てが壊された。いや、壊してしまった。


 生き残った自分が許せなかった。


 救うべき命も、たった一つしか救えなかった。


 力なく跪き、強く目を閉じた。


 哀しみが心を鷲掴みにし、責め苛んでくる。


 零れない涙を恨めしく思いながら、レオンハルトは再び立ち上がった。


 魔力を発生させ、それに対する『回路(サーキット)』の反応を探る。

 レオンハルトの十八番、遺跡における『回路』の探査法だ。


 数クラム単位で動きながら、反応を探り続ける。

 もし何かあれば、岩の奥でも土砂の中でも、間違いなく反応があるはずだ。


(やはり反応はない……。)


 疑念が確信へと変わっていく。


(そうだ。恐らく彼女の使うあの『回路』は……。)


 そんな思案を巡らしているところに、人の気配を感じた。

 カンテラの明かりが背後でチラリチラリと漏れている。


 気配は五人……いや、六人。


 ガチャリ、という重い金属音が聞こえた。恐らく武装しているだろう。


 気配の方向に向き直る。

 それと同時に、カンテラの明かりが一気にレオンハルトへ浴びせられた。


「テメェ! ここでなにしてやがる!」


 バイザーの機能で光量を調整し、視界をクリアにする。


 再度観察しなおすと、先の予想通り六人の人間が、短剣を構えてこちらを睨んでいるのが見て取れた。


「ここは俺たち、チェイス一家の縄張りだ! 他所モンは消えな!」


(『山師』か……。)


 レオンハルトはため息と共に考える。


 こういった廃棄された遺跡の中から、残りかすのような遺物のかけらをなどを漁る連中が、そう呼ばれている。


 中には個人的な学術研究家が自嘲的に名乗る事もあるが、大体の場合は盗掘者まがいの無頼漢ばかりだ。


「君たちに聞きたい。お宝は出たのか?」


「あン?」


「お宝は出たのかと聞いている。」


「聞いたか、オイ!」


 一人が嘲るように叫ぶと、残る五人が下卑た笑い声を出してきた。


「うるせぇ! 横取りなんざ考えてんなら、マジでぶっ殺すぞ!」


 笑い声が収まったところで、一人が怒鳴る。


 志のない、下劣な欲望によってこの非業の地を荒らされたという感覚がレオンハルトの逆鱗に触れ、その心の内面を大きく凍り付かせた。


 怒りという感情すら消え失せたレオンハルトは、静かに再び問いかける。


「君たちは、元からいた村人じゃないな?」


「何言ってんだ、コイツ?」


「どっかイカレてんのか?」


 その雰囲気に気圧されたようにボソボソと話し合っている山師連中へ向け、レオンハルトは語りかけるように言った。


「どうやら、あの事故の後にやってきたドブネズミのようだな。

 実力行使だ。文句を言うなよ?」


 そう言うや否や、レオンハルトは疾風の速さで正面の男の土手っ腹に掌底を叩きこむ。


 男はその場に崩れ落ち、カンテラが一つ割れた。


 この一撃で、山師たちに動揺が広がった。


 予想だにしなかった強さを見せつけられ、恐怖が芽生え始めたのだろう。


 短剣を構えているにも関わらず及び腰になっているところへ、再び一気に踏み込み、ストレートとアッパーをそれぞれ一人ずつに見舞う。


 残り三人。


 及び腰だった連中と、レオンハルトの視線が合った。


 三人は小さく悲鳴を上げると、きびすを返し大慌てで逃げ出し始めた。


 その逃げ道を塞ぐように、『雷撃』の魔法を鼻先へ叩き落す。


「ま……魔導士……。」


 山師の一人が腰を抜かし、怯えた声でつぶやいた。


 残る二人はうずくまって拝むような姿勢で、顔を伏せている。


「改めて聞くぞ?」


 レオンハルトは手近な一人に近寄り、肩を叩いた。


「お前たちはいつからここに来た?」


「ご、五年前でさぁ……。」


「それ以前の事は知らないか?」


「へぇ……何やら軍隊が仕切ってやしたが、それ以上は……。」


「そうだな……そうだった。」


「あ、あの、お宝はその……。」


「何か出たのか?」


「いえ、機械の残骸でさぁ。

 めぼしいモノは特に、へい……。」


「成程な。」


 静かにつぶやくレオンハルト。


 悔恨が、後追いで彼の脳内に響いた。


 この暴力は果たして必要だったのだろうか?

 何も残っていないとも知らず、ただ徒労に終わる苦役を、嬉々として続ける彼ら。

 そのほんのささやかな望みに土足で踏み込んだのは自分ではなかったのか?


 複雑な心の内、その全てを飲み込んで、レオンハルトはすっと立ち上がった。


「君たちに言っておく。

 ここで山師を続けるのは勝手だ。だが、これ以上の収穫は望めないと思うぞ。」


 それだけ言うと、レオンハルトは『転移』の魔法を発動させる。


 蒼い光に呆然となる山師たちを置いて、彼は再び帝都へ向かい、跳んだ。


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