直感
「コム。」
夕暮れの書斎にて、レオンハルトはコムに向けて話しかけた。
「義手の『回路』は、やはり本格的に研究させてはくれないのか?」
「ダメです。『遺跡の意思』が禁じていますので。」
「やはり、な……。」
レオンハルトの義手、その手の甲には、大ぶりの『回路』が埋め込まれている。
昼、研究室であったエレナとのやり取り。その時に気付いたのだ。
ミナトの大斧に埋め込まれた『回路』、それに匹敵する物を自分も持っていたことに。
能力そのものがどれほどの物かはよく解らない上に、使うことができたのは一度きり。それでも遜色がないのは疑いない。
この『回路』は義手と共に持ち帰ったものだが、全く研究できていない。
使用には、コムによる制限解除が必要だと『遺跡』は言っていた。
だが、その制限解除が行われたのは、デモンストレーションとしてのただの一回のみとなっている。
なぜ制限が必要なのかという問いに対しては、コムが短く答えてくれた。
「あの『回路』は危険すぎますから。」
「解っている。」
レオンハルトとて一流の研究者だ。
『回路』の能力も、危険性も、重々承知している。
恐らく『遺跡』も、その危険性を知っているからこそ、制限を加えてレオンハルトにこの義手を与えたのだろう。
「コム……お前は、あの大斧の『回路』に心当たりはないか?」
「あの『回路』からの波動パターンは、合致する記録が存在しています。」
「何だと!?」
レオンハルトは冗談のつもりでしかなかった。
だが『瓢箪から駒』。まさかの返答がコムから返ってきたのだ。
「あの『回路』は大出力エネルギー発生用の汎用型です。
主に大型の建機や兵器など、出力と同時に信頼性が要求される機械に導入するタイプですね。」
「成程な……彼女は魔力の変換に不慣れだった。
それにも関わらず、あそこまでの『神速』が扱えたのは、供給する魔力を『回路』で大きくブーストさせたからということか。」
「恐らくは、そういうことかと思います。」
「その『回路』は汎用型と言ったな?」
「はい。『回路』の作りとしては非常に簡素なものです。
純粋なエネルギー抽出、それだけのものです。」
「だが、出力は大きい。」
「その通りです。」
レオンハルトは考える。
この『回路』は、大型の建機や兵器に使用されていたという。
大型の……兵器!
レオンハルトの頭の中を、閃きが走った。
まさか! まさか!? まさか!!
「ツェッペンドルンの遺跡か……!!」
「どうしたんです? 顔色悪いですよ?」
レオンハルトは大股で書斎の出口に向かう。
ハンガーにかけた上着をひっ掴み、勢いよく袖に腕を通した。
「コム。今から朝まで留守にする。
ミランダの婆さんが来たら、食事は不要だと伝えてくれ。」
「え? ええ。でも今から朝までなんて、どこへ行くんです?」
「彼女と俺の原点だ。もう一度検め直さねばならん。」