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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第四章-『回路(サーキット)』
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助力と助言

「おかえりなさい。」


 研究室へ戻ったレオンハルトを、エレナが出迎えた。


「来ていたのか?」


「少し気になったのよ。

 また何か学院長に面倒事押し付けられたんじゃなくて?」


「まあな。」


「で、今度は何?

 魔導学部学長の監視? それとも魔導炉開発計画の精査?」


 ずいぶん気にかけるんだな……と、レオンハルトは考えた。


 エレナの表情は呆れ顔ではあるものの、内面にある興味は隠しきれてはいない。

 まるでスパイごっこを楽しんでいる子供のようにも思える。


「生憎だが、また君にも手伝ってもらう。」


「また? 嘘でしょ!?」


「隠しても仕方ないし、君にも十分関係するから白状するが、今度頼まれた仕事は教授の隠匿している仕事を炙り出すことだ。

 十分な知識と経験、そして教授自身を知る人間でなければ務まらない。

 無論手伝い程度で構わないが、それでもやってくれれば大いに助かる。」


 上着を椅子に掛け、身体を預ける。

 研究中の遺物などを雑然と並べた棚をざっと見まわすように椅子を回転させ、定位置へと固定する。


 そんな様子を横目で見つつ、エレナが小さく首を振りながら言った。


「学院長も人が悪いわね。

 なぜあなたばかりにこんな面倒事を押し付けてくるんだか……。」


「それだけ信用されているのさ、きっと。」


「本当にそう思ってる?」


 レオンハルトが苦笑交じりに言った言葉を聞いたエレナが、間髪入れずに尋ねてきた。


 彼と大公家の関係は、一部の人間を除いて、基本的には知られてはいない。


 レオンハルトの母を除いて、誰一人として証人のいない御落胤なのだ。知られてはいけないスキャンダルだともいえる。


 レオンハルトはその父親、ギルベルトの件を秘匿する代わりに、特別な干渉も、援助も受けないことを、ディアナと取り決めている。


 だが……今回の件はその取り決めに抵触し始めているのではないか。

 そんな懸念がレオンハルトの心中に芽生え始めていた。


 無言となった時間はどれほどあったのだろう。

 気が付けば、エレナはレオンハルトの机に腰かけ、顔を覗き込んでいる。


「別にね、手伝う事はやぶさかじゃないの。

 でもお礼ぐらいしてくれてもいいんじゃない?」


「お礼、と言うと?」


「一晩付き合ってくれるとか。」


 艶然とした笑みを浮かべ、机越しにレオンハルトへ迫るエレナ。

 香水の香りが艶やかに鼻をくすぐる。


 だが、そんな誘惑にまるで関心を覚える事なく、レオンハルトは冷然と答えた。


「冗談でもやめてくれ。

 俺は他人と必要以上に関わるつもりはない。」


 エレナは白けた表情をして、大げさにため息をつく。


「本当、冗談が通じないわね。」


「冗談などを言うような余裕がある人間じゃないのでな。」


「皮肉は言う癖に……。」


 レオンハルトの言葉を聞いて、エレナはボソリとつぶやく。

 そんな言葉を聞いているのか、いないのか、レオンハルトの視線は彼の左手に向けられている。


 視線の先に気づいたエレナが語りかけてきた。


「義手のこと?」


「ああ。またこれで研究が遅れる。」


「そこまで急ぐ必要はないでしょう?

 時間をかけてでも、正確にしっかりと研究しなければならないって言ってたのはあなた自身じゃな

い。」


「研究そのもので時間がかかるのはやむを得ない。

 だが、それ以外の要因で研究が遅れるのは正直なところ業腹だ。」


「研究者気質ね、本当。」


 腰かけていた机から立ち上がって、エレナは扉へ向かう。


「お手伝いはさせていただくわ。

 この間の一件で無関係ではなくなったし。」


「助かる。」


 扉の前でエレナは振り向いた。


「ただ、冗談抜きで、女性と一晩過ごすことぐらいはしておいた方が良いわよ。

 あなた、男前なんだから相手には苦労しないでしょう?」


「言ったはずだ。必要以上の関係は持たないと。」


「頑なね。」


「こう見えて色々としがらみもある。それを俺で断ち切りたい。」


「およしなさいな。

 どう聞いても自殺願望にしか思えないわよ?」


「かもしれん。」


 エレナは視線を落として、再びため息をつく。

 そしてそのまま後ろ手に扉を開き、そっと研究室から出て行った。


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