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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第四章-『回路(サーキット)』
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昼食

 査問会終了後の昼食時、レオンハルトはディアナの食卓に招かれていた。


 スープを四、五回ほど口に運んだところで、彼女は口を開いた。


「貴方の映像は決め手になってくれました。

 大変感謝しています。」


「そうでしたか……。」


 パンを少しちぎり取り、口へと運ぶレオンハルト。


「何か気に入らない事でも?」


「性急だったのではないかと思うのです。」


 レオンハルトもスープをひとすくい、口に含む。


(この料理はきっと、『美味い』のだろうな。)


 ぼんやりとレオンハルトは考えた。


 今の彼には味覚が存在しない。見事に焼けたパンの甘味も、豊かなコンソメの複雑な風味も、そしてそれらが織りなす魅惑的な味覚の刺激も、レオンハルトには無味乾燥にしか捉えられない。

 ただ、栄養を取るだけ、もしくは儀礼上、礼を失しないためにしか、彼は食事を行おうとはしない。


 故に、こういった会食をしながらの話し合いは苦手なのだ。

 料理を話題として話を弾ませることもできず、かといって本題のみに時間を割く事のできないような、この手の会食というものは。


「性急だったようにも思えますが、今ここであの札が来た事は僥倖と考えます。

 あれほどまでに明白な裏切りの実証は、他の離反組への十分な牽制……いえ、楔になってくれました。

 事実、査問会の後に何人かの匿名による告発があったと報告されています。

 他人の非を鳴らすことで己の正当性を担保しようとする。

 よくある話ですが、それぐらいに追いつめることができたのならば、初手としては上々でしょう。」


 スープを下げさせ、次の皿を用意させるディアナ。

 給仕はレオンハルトに皿を取り下げる旨、小さく囁き、彼もそれを承諾する。


 給仕が下がったことを確認し、レオンハルトがゆっくりと口を開いた。


「貴方と二人だから話せますが、あの映像にあった人間はオルセン公で間違いないと考えます。

 だとしたら、もう少し教授を泳がせ、せめて何を研究していたのかを探るまでやるべきだったのではないかとも思うのです。

 三公爵が何か遺物を用い、不穏な企みをしているなら、今教授を処断するような枝葉を切り払う行為ではなく、根を断つ一撃を見舞わせるべきなのでは?」


「貴方の言う事はもっともです、レオンハルト。」


 オードブルである川魚のマリネを少しずつ口に運び、ディアナは言葉を繋げる。


「それはこの問題において、重要かつ核心になります。

 やらねばなりません。中立に、そして公正に。」


「また……自分ですか?」


「言ったはずです。駒になってもらうと。

 教授の研究資料は、後日全て押収する手はずになっています。

 この資料を精査し、連中の求める『何か』を炙り出しなさい。

 よろしいか?」


 いつもの冷徹な視線がレオンハルトに突き刺さる。


 なぜだろう。


 この女性(ひと)はいつも俺を見つめる時、この視線を投げかける。

 冷たく、そしてどことなく敵意を持ったこの視線を。


「……解りました。

 ただ、今度はこういった場での話し合いは勘弁していただきたい。」


「何故です?」


「自分は食事に身を入れません。

 そんな人間が相手では、料理人も料理も嘆くことでしょうから。」


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