査問会
査問会議は延々二時間は続いている。
だが、その内容はほぼ堂々巡り。
教授の側は知らぬ存ぜぬの一点張り。
対する学院長が提示する様々な証拠については、自分を陥れるためのでっち上げだと強弁し続けている。
この査問会、出席者の大半は親皇帝派を標榜する者たちばかりだったが、中には数人ほど反皇帝派に鞍替えを狙っている者も存在していた。
もし三公爵によるクーデターなどが成功した場合、その後の立場が安堵されることを見越しての考えだったが、ここまで正確に情報が掴まれていては、粛清の危険もあり得ると判断し始めたようだ。
「では、最後の質問です。
教授。貴方は昨夜何者かと会食を行いましたね?」
学院長が教授の顔を冷徹な視線で見つめながら問いかける。
「そういうこともありますな。
皆さんはどうお考えかは知りませんが、こう見えてましても講演などの依頼も多いので。」
太々しく声を張り上げるカウフマン教授。
「そうですか。
時にこちらにはこういった映像が手元にありますが、これについてはどう釈明されるつもりか?」
査問会の参加者めいめいの机に備え付けられている小型の映写盤に、コムが昨夕撮ったやり取りの映像が映し出された。
音量はやや絞り気味だったが、その声自体は明瞭に聞き取ることはできる。
「貴方が何者と、どのような取引を行うかまで、学術院は干渉しません。
だが、金銭のやり取り、および研究結果の譲渡などが入るとなると話は別になります。
研究費用が足りぬ分は、学術院と交渉、稟議を通した上で増額を認める。
これが基本のはずです。
にも関わらず、なぜ貴方はこのような形で研究資金を調達しようとしたのか。
また、何を研究するためにここまでの資金を必要としたのか、それを明らかにしてもらいたい。」
学院長の声音はどこまでも冷徹だ。
その射貫くような視線を受け、教授の顔からは、どっと脂汗が浮き出てきた。
いつまでも返答のない教授に向け、学院長は静かに口を開く。
「再三口にしていますが、ここでこのような査問会を開いたのは、飽くまでも穏便に事を済ませたいからです。
貴方がこの国に害をなしかねない不穏な企みに加担しているならば、さらに苛烈な取り調べが待っていることも視野に入れていただきたい。」
学院長の言葉を聞き、青褪めた声音でざわつく参加者の声を背に受けて、教授はようやく声を絞り出した。
「レオンハルトだ……。」
「フォーゲル君がどうかしましたか?」
何事もないかのように、静かに問い質す学院長。
そんな声に激昂したかのように、教授は大声で叫ぶ。
「そうだ、レオンハルトだ!
奴がきっと私の地位を奪おうと仕組んだ罠に違いない!!」
鼻息も荒く、歪んだ笑顔を見せる教授。
それを聞いた学院長は、今まで通りの冷静さで答えを返す。
「ならばそれを証明なさい。
この件がフォーゲル君による誣告ならば、彼を厳しく罰する必要があります。
しかし、そうでなかった場合……貴方は今まで以上の咎めを受けることになる。
それは理解しているか?」
教授は言葉を詰まらせ、そのまま視線をゆっくりと逸らしていく。
そんな証明はできるはずがないのは、教授も、そしてきっと学院長も解り切っていることだろう。
「これ以上の問答は不要と考えます。
ここからは学術院の監査部に後事を任せ、この査問会を閉会します。
参加諸君、如何か?」
一段大きい声で学院長は閉会を宣言する。
今までざわついていた場が、一瞬で静まり返り、異論の一言はどこからも出てこない。
学院長は冷静さを欠くことなく、さらに続けた。
「異議なしと認めます。
では、カウフマン君。貴方には只今より謹慎に入ってもらいます。」
「謹慎……ですか……。」
半ば呆けた声で教授は答える。
それに追い打ちをかけるかのように学院長は言った。
「その後の沙汰はまた追って連絡します。
なお、襲撃者の件については警備兵を動かすよう、こちらで手配するので余計な真似は不要。
よろしいか?」
その言葉を聞いた教授は、何も言わず、ただうつむいて頷くだけだった。