仮面
「遅かったではないかね、教授。」
「申し訳ありません、閣下。
何分、妙な邪魔が入りましたゆえ……。」
『閣下』と呼ばれた小太りの男は、仮面をつけ、いかにもな態度で声をかける。
レオンハルトは潜入したコムの中継で、レストランの中の様子を確認していた。
中にいるのは、料理人五人、給仕が八人と支配人、客は十六人、そして、この『閣下』と教授……。
奥の間に通された教授は、この『閣下』と二人きりとなっている。
料理は並べられてはいるものの、どれをとっても既に湯気一つ立っていない。
そんな中、教授は汗を拭いつつ、恐る恐る話を切り出した。
「ところで……資金の面ですが……。」
「ん? ああ、それは問題ない。
増額は認めよう。」
『閣下』は、薄切りにした牛肉の炙り焼き一枚を口に運び、無造作に言い放った。
教授は満面の笑みを浮かべ、床に打ち付けそうな勢いで、深く頭を下げた。
「ありがとうございます!」
そんな様子を白けた様子で見ながら、『閣下』はさらに言葉を付け加えた。
「ただし、書簡にあった件で認められるのはそこまでだ。
期限の延長は許さん。」
教授はギョッとした表情で、仮面を見つめる。
「し、しかし、以前我々ができると言った期限は最低限の見立てだと申しました!
期限の延長はその時にもお話した、こちら側の権利だったはず!」
『閣下』は教授の顔も見ず、もう一枚肉を口にして、大儀そうに言葉を発した。
「確かに権利としては認めたよ?
だが、三度だ。三度も延期を認める訳にはいかん。
二人もうんざりしているし、我々の計画がこれ以上ないがしろにされては元も子もない。」
指をナプキンで拭いつつ、さらに言葉を続ける。
「いいかね、君。君は優秀な研究者だ。
だが、それ以上の存在ではない。
どういうことか解るかね?」
「それは……つまり……。」
「代わりは探せるということだよ。
天才によってしか成し得なかったと言われる偉業であっても、百人の凡人によって成されたりすることもある。世の中は往々にしてそんなものだ。
我々は金に糸目を付けない。
君の子飼いの研究者や山師連中を総動員して必要なものを探し出し、その上で優秀な研究者に研究させることもできるんだ。
そうしないのは、ひとえに計画の漏洩を防ぎたい、それだけの話だ。
もう一度言うよ。君の代わりは探すことができる。
『用済み』と判断されたくなければ、発掘に尽力したまえ。
いいね。」
『閣下』の眼光が、仮面の奥で鋭く光った。
一瞬、教授の身体がブルリ……と震えたが、その後大袈裟にお辞儀をすると、部屋から弾き出されるように飛び出していった。
テーブルの上に盛られた食事を見つつ、『閣下』はポツリとつぶやいた。
「臆病者は少し脅せばいい。使いやすい駒だよ。」




