シュヴァルベ
「自己紹介させていただきましょう。」
黒づくめの女は、レオンハルトの前に立つとそう言ってきた。
「私の名はシュヴァルベ。
錬金術師を営んでおります。」
「ほう……。」
警戒の眼で、レオンハルトはシュヴァルベと名乗った女を見やる。
「錬金術師というが、何を研究している?
『賢者の石』か? 『エリクシール』か?」
レオンハルトの言葉に対し、シュヴァルベはくすくす笑いで答えてきた。
「そのような、ペテンまがいの卑俗な物ではございません。
我々とても、『回路』の素晴らしさは存分に理解しているつもりですが?」
「そう……『回路』の研究、ね。」
エレナが制服の埃を払って近づいてきた。
彼女もまた、胡散臭いものを見る目つきだ。
「でも、おかしいじゃない。
この帝都の錬金術師なんて、十指で足りるくらいよ?
まがりなりにも、私たち『回路』の専門家が揃って名前を知らない錬金術師なんているものかしら?」
「そんなことはどうでもいい!!」
三人のやり取りに割り込んできた、神経質そうな怒鳴り声。
見れば、教授が馬車の中から、何とか身体を引きずり出したところだった。
「レオンハルト、急げ!
馬だ、馬に乗せろ!!」
レオンハルトに詰め寄ってきた教授に、エレナは心底呆れた声で言った。
「まだ行くおつもりですか?
ここまでの目に遭ってまで、なぜそこまで……。」
「言ったはずだ、重大な要件だと!
私の研究と、未来の全てがかかっている!
レオンハルト、急げ!!」
レオンハルトはため息をつくと、馬にまたがり教授を待った。
教授は御者の手を借りてようやく馬の背によじ登ると、金切り声でレオンハルトへと指示を出す。
その指示を受け、レオンハルトは手綱を握り、一気に駆け出した。
その上空ではコムが人知れず浮かび、二人の後を追っていく……。




