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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第三章-襲撃
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撤退

「さて、頃合いかね。」


 ヒュウガはボソリとつぶやくと、軽く首を鳴らす。


 見れば馬車はがら空き。誰一人護衛はいる様子がない。


 部下も、ミナトも、みな自分の仕事をきっちり果たしてることに、ヒュウガは感謝していた。

 後は、俺が教授に十分な脅しをかければ任務は完了だ。


 口の端を軽く上げ、ニヤリと笑う。


 次の瞬間、再び表情を切り替えると、ヒュウガは放たれた矢のように、馬車へ向けて一直線に駆け抜けていった。


 だが、ヒュウガが馬車にとりつく直前、彼の目の前で炎が吹き上がった。


「魔法だと!?」


 意表を突かれたヒュウガは、炎の柱を振り払いつつ、間合いを測り直す。


 魔法を使える人間――レオンハルトは、今ミナトが抑えつけている。


(ならば、誰だ?)


 ヒュウガの頭が論理的な思考を巡らせていく。


(御者はただブルってるだけの一般人だ。

 教授が魔法を使えたという話は聞かねぇ。

 もう一人の学術師……コイツだな!?)


「出てきな。」


 バランスを崩し、傾いだままの馬車に向け、十分な距離をとってヒュウガは呼びかける。

 その言葉を聞いたのか、半開きだった扉から、ロングのブロンドをなびかせて、エレナが姿を見せた。


「アンタ……確かレオンの同僚だったな?」


「ええ。何回か会ってるわね、狼さん。」


 やり取りの声音こそ静かな物の、その二人の間の緊張感は生中なものではない。


 一瞬の沈黙の後、ヒュウガが再び口を開いた。


「俺ぁ、女は殴らねぇ。手を引いちゃくれねぇか?」


「生憎ね。人間性はともかく、教授は私たちのボスなのよ。

 はい、どうぞ。というわけにはいかないの。」


「俺たちゃ、あのオヤジの命までは取らねぇよ。

 少しばかり話つけさせてもらえりゃ、それでいい。」


「信用できるものですか!」


 エレナの吐き捨てるような一言と同時に、ヒュウガの足元から炎が噴き出した。


 一瞬早く飛び退いたヒュウガは、そのまま大地を蹴って、エレナの眼前へと踏み込む。

 エレナの顔に驚きと恐怖の入り混じった表情が浮かんだ。


 握り固められた拳がエレナの鳩尾に向けられたその瞬間、いずこからともなく放たれた銃弾が、ヒュウガの頬をかすめた。


 銃弾の放たれた先の目星をつけ、その方向に瞳を向ける。


 その視線の先には、黒づくめのスーツとマントとつば広帽に身を固めた男装の女が、銃と剣を両手に持ち、ヒュウガに向けて険しい眼差しを投げかけていた。


「手前ぇは?」


「名乗るつもりはありませんよ、狼の君。」


 女は左手の銃を連射しつつ、素早い身のこなしで間合いを詰めていく。

 見てくれは旧式のラッパ銃のはずなのに、なぜここまで連射ができるのか?


(魔導器か……厄介だな。)


 旧式の形を取った、魔力の弾丸を尽きる事なく連射する恐るべき銃。

 そんな魔導器を持つ女が目の前まで詰め寄ってきた。


 細身の剣の鋭い切っ先が、予想以上の高速で突き入れられる。


 この女も低位ではあるが『神速』の魔法を身にかけているのかもしれない。


 だがヒュウガも、その切っ先の全てを躱す。


 彼とても武道の達人だ。見切りとその身のこなしは一流を自負している。


 切っ先を躱し、銃撃を避け続ける。

 隙を突いての拳の一撃は、向こうの剣でいなされて躱される。


 そんな攻防が数分続いた辺りで、ヒュウガの顔色が悪くなってきた。

 大振りの、そして渾身の回し蹴りを放ち、女に距離を大きく取らせる。


(限界か……。)


 忌々しげな表所を見せたヒュウガは、撤退の指笛を鳴らした。


 三人の部下は相手取った四人を牽制しつつ、林の奥へと駆け出していく。


 ミナトは悔しそうな表情と共に、レオンハルトに背を向けざるを得なかった。


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