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学術師 レオンハルト ~人形(ひとがた)たちの宴~  作者: 十万里淳平
第三章-襲撃
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内通者

「さて、今回は情報通りなのかね?」


 夕闇の中、ヒュウガの声が小さく響く。

 学術院を窺える小高い丘。

 その場に居合わせているのは、ヒュウガ、クリストフ、そしてミナトの三人だ。


 残るテオとエルマーは別のポイントで待機しているらしい。


「どういうことですか?」


 クリストフがヒュウガの顔を覗き込んで尋ねた。


「いや、もし本当なら出来過ぎだってことさ。

 向こうだって動きは知られたくない。

 しかしそれが俺たちに筒抜けになるってことは?」


「内通者……。」


 ヒュウガの言葉に間髪入れずクリストフが答える。


「そうだ。

 どうもこの一件、その内通者に仕組まれている感がある。」


「あのさ、確認したいんだけど……。」


 ミナトが口を挟む。


「こっちの目的は教授を殺す事じゃないんだよね?」


「その通りです。」


 クリストフが丁寧に答える。

 その言葉にヒュウガが続いた。


「俺たちの目的は、教授の行動の妨害だ。

 結果暗殺になっても致し方なし、ではあるがな。」


 ふぅ……とため息をついてミナトが一言言った。


「随分回りくどいんだね。」


「あのオヤジは帝国の頭脳としては優秀だ。だから殺すのは避けたい。

 だが、もし陛下が危惧している通りの状況だとしたら暗殺に任務は切り替わる。

 だから妨害だ。警告の意味を含めて、な。」


 ヒュウガの答えを受けて、ミナトはさらに質問を続ける。


「答えられる範囲でいいけど、その『陛下の危惧』っていうのは?」


「三公爵です。」


 クリストフが間を置かず答えた。


「教授と三公爵とが密接な関係を築くこと。これが陛下の危惧なさっているところです。

 もしそうなった場合、十年前の事故を故意に行うことで、マウルに対しての開戦と同時に降伏勧告を出し、戦争状態を無理矢理に終結。さらにはクーデターまで謀る可能性が十分に考えられるからですね。」


「あれを……故意に!?」


 ミナトの目に並々ならぬ怒りの炎が燃える。


「やっちゃダメだ!!

 そんなこと、人として絶対やっちゃダメだ!!」


 ミナトの息が荒い。相当興奮したのだろう。


「だからこその妨害だ。

 この一件で肝を冷やして、三公爵なんぞに関わるのは損だと考えてくれりゃ、任務は大成功と言える。

 俺たちに対しての命令内容はこんなところだ。」


 そんなミナトを宥めるよう、静かな声でヒュウガが語りかける。


 そこにエルマーが飛び込んできた。待たされていた三人の目つきが変わる。


「物見から連絡が来ました。目標は、情報通り本日これから出発の様子です。」


「やはり、な……。」


 ヒュウガがため息交じりに言う。


「内通者あり、ですね。」


 クリストフの言葉を背で聞きながら、ヒュウガは冷静な『仕事』の顔になる。


「総員準備だ。

 襲撃ポイントは予定通り第一にする。

 護衛は?」


 その問いに早口でエルマーが答える。


「四名。これに学術師二名が同伴のようです。」


「それなら何とかなる。ミナトの馬は用意できているな?」


「はっ、一等級の軍馬を用意しました。」


 大股で歩を進め、丘を下るヒュウガ。

 その背中を追ってミナトが礼を言う。


「悪いね。馬まで用意してもらって。」


「いや、今回の件、機動力が命だ。

 お前ぇだけ置いてけぼりじゃあ話にならん。」


 少し間をおいて、ミナトがヒュウガに問いかけた。


「でもさ、何であたしを選んだの?」


「お前ぇのその復讐心が必要だった。

 前ン時は奴を押し留められるのは俺だけだったが、お前ぇがいれば選択肢が大きく増える。

 ましてお前ぇは、ヤツを許す気はないんだろう?

 どこまでも食い下がってくれれば、コッチも仕事がやり易い。」


「なるほどね。」


 ミナトがヒュウガの答えに納得したところで、テオの姿が見えた。

 その横には、五頭の軍馬が用意されている。

 ミナトの軍馬は、他のものより一回り大きい栗毛の馬だ。


「探すのに苦労しました。」


 そこにいたテオが半分困り顔で言う。


「この帝都で、それだけの大斧を担いで乗せられるほどの馬となると、なかなか……。」


 そんなテオに微笑みを投げかけ、ミナトはポンポンと馬の首を叩いて反応を見た。

 鷹揚に馬が振り向く。


 ミナトはどうやら馬を気に入ったらしく、口に軽い笑みを浮かべ、そのまま一気にまたがった。流れるような所作は相当乗り慣れている証拠だ。


 馬はかなり頑強で、ミナトが大斧を構えてもびくともしない。


「改めて言うぞ。殺す気でいけ。」


 全員が乗馬したのを確認したヒュウガが、ミナトに言った。


「ヤツは優しい。ゆえに手が出せん。

 そこを徹底的に利用しろ。」


 それを聞いたミナトは、ヒュウガに問いかける。


「本当にいいのかい? ダチなんだろう?」


 ヒュウガは、ミナトが今までで見た一番冷たい視線を見せてこう言った。


「仕事は仕事だ。」


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